寝袋や身の回りのものを運びに4年ぶりに入ったそこは何もかもが懐かしかった。
間取りは少し違うけれど、お風呂は広いしきれいだしやっぱりここはいいなぁ、と思ったのはそのときだけだった。
カーテンもなく、テーブルも椅子も冷蔵庫もWi-FiもPCもTVもない、持ち込んだ数冊の本だけの部屋はなんとも落ち着かなくて、初日の夜はしたたか酔って眠りについたが夜中に目覚めてしまった。
日が昇るのを待って自宅へ戻ると、いつもの部屋はしっかり養生されており他人の顔。コーヒーを淹れて飲んでも間が持たず、そそくさと家を出た。
午後はのんびりジョグ。すれ違う犬たちに色目を使ったり花の香りを嗅いだりして隅田川を走るも、しばらく洗濯ができないというのにジョグのせいでまた洗濯物を増やしてしまったことを悔やむ自分のみみっちさにがっかり。
増やした洗濯物をランドリーバッグに押し込んでいると、先日「おいてけ堀」で仲良くなったおじさんとのこの日の約束を思い出した。
長いことひとり飲みのお店としてお邪魔していたこのお店、昨年の暮れから顔馴染みのお客さんがぐっと増えた。この晩おじさんを交えて話した方が、私と同じ徒歩通勤でたまに隅田川沿いを走るという。あれ、そういえば週末に隅田川の向こう側を走っていたでしょうと言われてギクッ。いつも汚い格好でふぅふぅ言いながら走っているので気付かれたくはなかった。
話は盛り上がり、気付けば最後の客のひとり。
おじさんがどんどん飲めとそそのかすたびに隣の方が、おごりでもないのになに言ってんだと言う掛け合いを何度聞いたかわからないほど飲んでさようなら。楽しい夜だったけれど、帰るのはあの部屋かと考えたら酔いもさめた。
二日酔いで目覚めて、もうこんな生活はイヤだとしみじみ思う。ボロくて汚くても自分の好きなものだらけの自宅が恋しい。目と鼻の先なのに遠く感じる。
自宅でコーヒーを淹れながら、今朝はソバだなと思ったらもう頭はソバでいっぱいになり「土俵そば」へ急ぐ。
温かい湯気でいっぱいの店内はほぼ埋まっていて、控えめにソバをすする音だけが響く。ここはやはり紅しょうが天そば。しばらく待って出されたそれは、立ち食いそばのお店を始めようとしていた友だちが奨めてくれただけあってとんでもなく美味しかった。
浴槽の塗装が終わったと業者さんから連絡があり、やっと帰れるとうれしくなったがお風呂はまだあと一日使わないでくださいと言われた。昨夜教えてもらった最高の銭湯へ行こうかとも考えたが、なんでもよいから帰りたくて部屋を引き払って帰宅。
寒くてもボロくても汚くても自宅はいいなぁと、ひっそり家でお祝いしたのは言うまでもない。
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