緊急事態宣言が解除されて通常の時間まで労働しながら、この晩はソロで酒場へ行こうと考えていた。いそいそ帰宅してねまちにごはんを与え、ミルクを平らげたのを見届けていざ、とかばんを持ち上げるとこの日に限ってねまちが絡んでくる。すぐ帰るから、と言い聞かせるも玄関で平べったくなってケケケケと文句を言われて根負けした。
期待はずれの映画を観ながらねまちの耳掃除をして、余震が来たら心配だしこれでよかったと深酒。真夜中の大運動会で眠れず。
翌日もいそいそ帰宅してねまちのごはんの用意をする。私のスプーンと片方の箸がない。これは飲みに出かけてよしというメッセージと解釈し、すぐ帰るからと説き伏せて家を出た。今度は靴箱に隠れてにらんでいた。ここまで反対されても酒場へ行く必要はあるのか、と途中ふと思ったが振り向いたら負けよ。
酒場の暖簾から中を覗くとお豆腐屋さんがサッカーを見ていた。
こんばんは、と腰を下ろすと、どうも、毎度ありがとうございますと言われてあの出来立てのお豆腐と揚げたての厚揚げの味がよみがえった。
いつもはあまり表に出てこない大女将がにこにこしながら、こないだの湯葉とてもおいしかったわ、とお豆腐屋さんに言いに来た。最後の最後の湯葉が好きなお客さんがいるので大女将にもおすそわけしたのだそう。豆乳も湯葉もとろとろでシチューのようなんですよと聞いて、いてもたってもいられなくなった。
近所で工事などがあると昼食にお豆腐を買いに来る作業員さんもいるらしい。お弁当だけではもの足りないのでお豆腐を一丁買って、醤油たらしてくんない、と言って隣の公園で食べるのだそう。それいいですね、と感心していると、昔は商売やってるところは昼どきになると肉屋でコロッケ、魚屋で魚、豆腐屋で豆腐や厚揚げを買って、でかい釜で炊いたごはんでみんなで昼めしにしたもんです、とのこと。なんともぜいたくな昼ごはんだなぁ。
しばらくして常連さんのきれいな女性が現れて、この日はいなかった常連さんの話からお豆腐屋さんの初めての海外旅行の話になり、あんまりおもしろくて酒がすすんだ。
ふと気づけばいい時間。ねまちの顔が浮かんだのでお先にさようなら。
今夜は早めに寝ようと床についたが、この夜も大運動会で眠れなかったのであった。
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