2021年5月28日金曜日

こんなことって

実は先日、財布を落とした。
気付いたのは翌日で、酒で濁った頭と体をなんとか動かして前日立ちよった近所のお店に聞き込みに回るも成果はなし。そのまま近所の交番へ行って指定の用紙に必要事項を書き込んでいると、PCをいじっていたお巡りさんが、もしかしてY-3のお財布ですかと言うので、えっ!そそそそうですと応えると、そのお財布なら今朝本署へ届けましたと言う。まだ朝早いのでもう少ししてから行ってみてくださいと言われたが、即本署へ向かって歩き出した。
果たしてそこには愛しい私の財布があった。お金は抜き取られていたがその他の大切なもの(ぼっちゃんのひげの入ったお守りやフンド氏のお墓参りに必要なカードなど)は移動こそしていたが無事だった。
届けてくだすった方の連絡先を教えてもらってひとまず帰宅して、なぜか行かなくてもよい労働に行って働いた。
愛しのお財布を拾ってくれた方はとても変わった苗字だった。どうやってお礼の気持ちを伝えようか数日考えて結局ハガキにした。

学生時代の友だちから新茶を送るとの連絡があり、その日は早めに帰宅して一杯やっていたら新茶のことはすっかり忘れていた。呼び鈴が鳴って扉を開けたら、たまに来る宅急便の腰の低い若いお兄さんだった。伝票にサインをしていると、あの失礼ですが、数週間前にお財布を落とされませんでしたか、と言う。なぜそのことを?と思わず名札を見ると、果たしてそれはお財布を交番へ届けてくだすった方の変わった苗字であった。
あなたが、と言葉を失ってアホ面を隠せずにいると、ハガキありがとうございました、うれしくて大事にとってありますと言う。とんでもない、こちらこそ本当に感謝しています、大事なものが入っていたので、とコメツキバッタのように頭を下げた。
そうだったのか、あの腰の低い若いお兄さんがとうれしくなって、財布を落としたことを話したふたりのうちのひとりの妹に迷惑電話をしてから友だちからの宅急便を開けると、新茶の隣にガーベラが3本入っていた。造花ではなく生花。友だちの住むまちはガーベラの生産量日本一なのだそう。茎は水を入れた風船に入れて輪ゴムでしっかり巻いてありみずみずしかった。
あわててコップに挿したガーベラを眺めながら、ぼんやり啜った焼酎はもう何杯め?

2021年5月25日火曜日

あれから何度めの

離れていてもリアルタイムでナマで同じイベントを見て大騒ぎできるのがコロナ禍で唯一のよいところ。週末の夜はRHYMESTERのMTVアンプラグド発売記念の配信打ち上げであった。
幼なじみに送ってもらった赤豆でチリコンカンを作って酒は控えめにして時間を待つ。缶ビールは酒ではないが2本にしておいた。
始まってからは狂喜乱舞、冒頭の正真正銘アンプラグドの「ザ・サウナ」に白ワインと間違えて買った赤ワインで酔いが回ってわけがわからなくなった。ベースの彼がカッコよかった。
オンラインのイベントは終わると急にさみしくなるもの。〆に幼なじみと互いにYouTubeでライブを観ておやすみなさい。幼なじみは「サマーアンセム」私は「The R」、あなたは右に私は左に、振り向いても負けじゃない。
翌日はひとりLSDを30kmキメてくたくた、その翌日は友だちと25kmのLSDをキメたおかげで前後左右不覚で、平日の夜に改めて配信打ち上げをじっと見た。途中じんとくることが何度もあり、やはりライブが観たくなったのでYouTubeでライブを観ていたら身体がむずむずしてきてまたもやお弁当のおかずをつくり始めた。
歌って躍りながら炒めものなぞしていたら「マクガフィン」になったので手を止めてモニタをじっと見ていると、何度も観ているのに同じところでぐっときて滅多に言わないひとりごとが出た。
「か、かっこいい」
これで興奮が止まらなくなり、あの夜の赤ワインを飲んでおかずも一品多くつくってしまった。
白とら
だから早く寝なさいよ!

2021年5月18日火曜日

虹を見たかい

ラジオで大相撲中継を聞きながら、御嶽海の変化に座布団を投げそうになったり豊昇龍の2日連続大関撃破に興奮したりした帰り道。
立ち止まり何かを見ている人たちに気付いて空を見上げると、虹が出ていた。
ビルをはさんで見える見事な大きい虹。ゆっくり歩きながら眺めていると新大橋で全体像が見えた。しかもダブルレインボー。くっきり7色見えた。
こんなに長く虹を見たのは、いつぞやの初めてのトレイルランの大会の帰り道以来。友だちの運転でみんなで虹のたもとを見に行ったのであった。
ざりがに
こういうのって写真に撮らずに目に焼き付けるんだってあの人いつも言うよね

かっぱ
でも結局撮ったんでしょう

まっくん
センスがないからやっぱりうまく撮れなかったらしいよ

パンダ
ところであなた誰なの

まっくんとは私の田舎の近くのまちのキャラクターで松ぼっくりのまっくんらしいのだが地元の友だちは誰も知らない。帰省して見つけるたびにうれしくなるのだけどなぁ。

2021年5月17日月曜日

夜更けのうわさ話

手のひらにマメまでつくって本棚を完成させた。
この機会に絵本は絵本、食べものは食べものに、読み返しそうなものはそれなりにまとめることができた。もう読まないけれど面白かったものは友だちへ送った。部屋は少しだけ広くなった。
椅子にふんぞり返ってTVの位置を確かめて満足するもこの夜は見たいものがなく、お弁当のおかずをつくり始める。
めざし
またあんなにつくっちゃって。

ひよこ
あーあ、ホタテに指はさまれて悶絶してるし。

すずめ
もうじゅうぶんつくったのに今度は鶏のささみを見て腕を組んでいるよ。

小鳥たち
デリカシーのない人!
パンダ
まだ私たちの仲間が段ボール箱の中にたくさんいるのに結局今夜も出さないのね。

かっぱ
仲のよかった小鳥の水笛も象の爪切りも、もう3年以上段ボールの中だよ。

ダニエル・クレイグ
私なんて顔が好みだっていうだけでこんな鼻炎薬の隣なんかに飾られているんだよ。
「007」も観たことないくせに。

2021年5月15日土曜日

土曜日の気分

遠くのヘリコプターの音はのどかな休日の象徴だ。
ラストにその音を聞きながら「家族ゲーム」を観終わったのは金曜日の深夜だった。
土曜日の始まりだ。
洗濯物とふとんを干して、音楽をシャッフルしたら懐かしい「Saturday in tha park」が始まった。この曲を聴くと休日に実家の四畳半の隙間に挟まって小さな窓からぼんやり空を見ていたことを思い出す。
そうだ、久しぶりにフラットホワイトを飲もう、と家を出たがいつものお店を通りかかって唐突にカレーライス。
この日は今までになく美味しい切り干し大根の煮物をつけてくれた。カレーライスは土曜日らしく最後の最後のカレーの様子でそれもよかった。
食後にフラットホワイトを求めてコーヒー屋さんにようやく到着。
またもやマラソン話に花を咲かせてぶらぶら帰宅する途中で、暖かくなるとリード付きで玄関から出てくる三毛猫に再会して思う存分撫でくりまわす。隣の犬が通っても道のど真ん中から動かない三毛猫は可憐で毛並みがよい。

この日は相撲のパイセンと大相撲観戦。着替えていそいそ出かけると、とんかつ屋さんの前で貴闘力に遭遇。そういえば王鵬は今場所どんな感じだったかなと考えながら国技館へ向かう。

取組はあっという間で、伊勢ヶ浜親方をじっと見つめたり幕内土俵入りで豊昇龍と若隆景が並んでいる姿に見とれたり血まみれの剣翔に驚いたり応援タオルをとっかえひっかえしているうちにもう御嶽海が控えに出てきた。途中、自分の応援している関取たちがどうやら北勝富士以外全員負けていることに気付いて照ノ富士だけは験担ぎにタオルなしで応援しようと思ったが、照ノ富士だもん大丈夫だよとパイセンが言うので思いきってタオルを広げた。結果危なげなく勝ってホッとしたのもつかの間、結びの霧馬山は負けた。
緊急事態宣言下でヤミ営業をしているお店のない両国で、それでもなにか食事でもとノンアルコールビールでパイセンと乾杯。杯を重ねるうちにノンアルコールでも次第に酔った気になってきた。
自宅で二次会を始めたらもう深夜で、完璧な土曜日が名残惜しくて深酒をキメたのはいうまでもない。

2021年5月11日火曜日

君津ウルトラマラソン

2本飲んだあのお銚子は2合徳利だったのだと気づいたのは、朝起きたとき自分の身体にまだ酒が残っていたから。食欲もなく、ゆで玉子をもそもそ食べて出発。二日酔いの翌朝に体温を計ったら37.5℃を超えていたという人の話を思い出して青くなったが、会場で計ってもらった体温は34.4℃であった。

まだ肌寒い早朝、グラウンドでストレッチしていると、57㎞じゃあ物足りないでしょう、と地元スタッフのおじさんが話しかけてきた。とんでもない、完走できるかどうかも怪しいです、と答えると、このあたりは平坦で走りやすいから大丈夫だよ、と昨夜の大将と同じことを言う。でも結構な坂道が2ヶ所あるからな、おれも昔はよく走ったもんだよと言うので、今日は走らないんですかと訊くとおれはこれよ、とハンドルを握る仕草をした。
開会式での、九十九谷からの景色をぜひ見てくださいとの言葉をしかと心にメモして早朝6時にいざスタート。

雨上がりのバラの香りに包まれた川沿いの遊歩道を走るのは気持ちがよかった。
確かに田園風景は多いが変化に富んでおり、水田のかえるの声や珍しい雑草、民家の花を見て走るのが愉しい。草刈りをしている人の脇を通ると青臭い初夏の匂いがした。
しかし愉しく走っていたのはそこまで、そのうちにおなかがしくしく痛くなってきた。これは明らかに昨夜の深酒のせいだ。二日酔いで仲間たちと遠くの湖までLSDに出かけて、森の中でおなかが急降下してえらい目に遭ったという人の話を思い出して青くなったがそこまでではなく、それでもげっそりしながら最初の坂道に入ると、スタート時に並走していたランナーたちが折り返してきた。すれ違うときに「ナイスラン!」と声をかけてもらうもそのとき私はとぼとぼ歩いており、ナイスでもランでもなかった。しかしフィトンチップという言葉が何度も頭に浮かぶほど木の香りがいっぱいだった。
何か所めかのエイドでりんごジュースやバナナをいただいてすっかり元気を取り戻したのでそこからは普通に走った。いちばん険しいといわれた鹿野山はとても走るような坂道ではなく、みなのろのろと歩く。登山だなこりゃとたまに漂う田舎の香水に息を詰まらせながらもくもくと上る。途中あたりが開けて絶景が現れた。これが九十九谷か、と山に囲まれて育ったものだから懐かしくなって休憩。
さて走りますか、とゆっくり進むとしばらくして折り返しのランナーたちが。すれ違うたびに声をかけあっていくと女性ランナーが、もうすぐ折り返しだよ、おにぎりあるよ、と言うのでスピードを早めるとあっけなく折り返し地点に到着。
果たしてまだおにぎりはたくさんあったが食欲はなくクエン酸ドリンクをガブガブ飲んであたりを散策。大きな神社があるなぁ、と見ていたら、ここは神野寺という有名な神社だからぜひ見ていってとスタッフのおじさんに言われたので参拝することにした。ひっそりとしたなんとも清々しい神社であった。
ここからは下り坂のみで喜んで飛ばしたが、途中へびが応援に来てくれたのに気付いてアドレナリンが引っこんだ。
それにしても抜きつ抜かれつのランナーが同じ顔ぶれだなぁと思いながら朝走ったバラの香りの川沿いの遊歩道に出ると、向かいから走ってきた方がエアサロンパスと冷却スプレーを取り出して、あと少しですよ、いかがですか、と声をかけてくだすったので遠慮なく太ももにかけてもらった。コロナ対策で私設エイドは禁止されていたので、こうして走りながら気遣ってくださる方が何人もいてありがたかった。
いよいよゴールが近づき、戦友のようだった抜きつ抜かれつのランナーをぶっちぎってスピードを上げた。早くビールが飲みたい一心で。そしてグラウンドを一周してゴール。
と思ったら、前を走っていたおじさんがまだ走っている。もう一周あったのか。
記録係のお兄さんに、残り一周しないでゴールしてしまいました、と告白するとタイムは調整するからもう一周しますか、と問われ、まだ元気が残っていたので走り出した。ようやく本当にゴールして完走証をもらいに行くと、すごいっすね、おれならごまかしますよ、と褒められた。
それから完走メダル、水、地元のお菓子、お弁当、ガリガリくんなどをいただいて、地元のみなさんが片付けているのをぼうっと眺めながらあっという間にさようなら。
念願のビールはお弁当をつまみに。たけのこご飯に肉団子。いかにも手作りのそれが本当に美味しくてすぐに胃袋におさまった。
タカラガイはきれいに磨いて貝殻コレクションに加えた。

2021年5月10日月曜日

君津ウルトラマラソン前夜

翌日にウルトラマラソンの大会を控えたその街で発見したお店はなんとも好みの佇まい。
ただしそのとき時刻は15時。雨の中あちこちを歩き回って開店時間ちょうどにイン。
カウンターに腰かけて、お魚はなにがおすすめですか、と訊ねると今日のかつおはうまいよ、切りながら秋のかつおみたいだなぁと思って自分の食べる分よけちゃったもん、と大将はどんぶりの中のかつおを見せてくれた。
瓶ビールを注ぎながら天ぷらは何にしようかなとメニューをにらんでいると、突き出し出すから待ってな、と見事なえびフライを3本も揚げてくれた。
しばらくして、かつおをメインに2、3人前はあろうかというボリュームと内容の刺盛りを出してくれた。これは熱燗でしょうと決意。
かつおはもちろん鯛や平目やかんぱちまで、おや、これはと思わず大将を見ると、ウニもしっかり入れといたよ、とニヤリ。

ずっと大将ひとりだったお店が途中から娘さんやお孫さんが来てお店が回り始めた。
いつも孤独に飲んでんのかい、と大将に訊かれたので、孤独じゃないけどそうですよ、明日のマラソン大会に出るんですと答えてコースマップを見せた。
57㎞も走るのかい、まあこのあたりは平坦だからな、とマップを娘さんやお孫さんに手渡した。へえ、こんなとこまで走るの、田園風景しかないよ、と娘さんたちは目を丸くした。
どこから来たんだい、と訊かれたのであごのマスクを引き上げながら、すみません東京からなんですと小さくなった。嫌な顔をされたらどうしようと身構えたら、しばしの沈黙のあと、おれは世田谷からここへ来てもう40年になるよ、と大将。生まれは三重、と聞いて三重の友だちの顔を思い出した。もう84なのに若いよね、と隣の席のお客さんが言ったのに驚いた。どう見ても80歳代には見えない。
ここはいいところだよ、海も近いし山もあるし、と大将が話すのを聞きながら次は何を食べようか考えていると、娘さんが後ろからそっとお皿を置いて口の前に人差し指。マーボー豆腐だった。和風のマーボー豆腐はなつかしい味だった。
久しぶりの酒場がうれしくて満腹に近くなったがハゼの天ぷらを注文。しばらくすると今度は大将が大きなお椀を差し出した。地元の海苔のお吸い物がたっぷり入っていた。
明日走るのに酒なんか飲んで大丈夫か、と何度言われたか。まだ時間も早いしよく寝たら大丈夫ですとおいしい天ぷらも頂戴してごちそうさま。
これやるよ、と大将が差し出したのはむかし海の近くの売店で見たものをもっと立派にしたような貝殻。タカラガイっていうんだよ、これ持って走れば完走できるぞ、と言われてハイ、必ず持って走ります、とペコリ。
いいお店だったな、私も鼻が利くようになったよ、と心の中でフンド氏に自慢して、よせばいいのに仕上げの缶ビールまで飲んでおやすみなさい。