2018年12月27日木曜日

沈めるつもりで

とある警察署から、会社に電話があった。
数年前に、私の勤務する事務所ビルに入った泥棒が逮捕されたとの連絡であった。

担当の刑事さん(?)は淡々と経緯を話したが、最後の言葉に目が醒めた。

「とにかく、なんとかして半年か1年、刑務所に沈めるつもりでいますので」
「し、沈める・・・・そうですか・・・」
「はい、安心してください」

逮捕時の犯人の所持金や、だいたいの生い立ち。
そして「沈める」という言葉。
刑事ドラマの定番のような展開に、これは新手の詐欺か、とも疑ったが、なにも頼まれていないし、折り返し掛けなおした電話番号は、やはり警察署であった。


おひさしぶりねの「ニューねこ正」へ登場。
唐突に・にわかに、というより、じわじわ感覚を思い出したできごとがあったので、少し考えごとをしたくて、やってきた。
まぁ、飲んじゃうんですけどね。


脳みその眠っていた部分が、少しだけ動き出しそうな予感。
それは、いつもきっかけをくれる「両国図書館」のオーナー。
へっぽこな私に、まったくありがたいことです。

女性作家が好きではなかった私に、オーナーがなにげなく見せてくれた田辺聖子には、呼吸をするのと同じくらい必要なことを発見させてもらったし、吉田健一の「金沢」には、未だ行ったことはない冬の金沢の匂いと並外れた酒量を味わわせてもらった。
いくつになっても、こういうものが、栄養になる。

なんて
ウチにも寄ってって・・・・と「スナック女将」に誘われて、結局あの刑事さんの「沈める」話をするのが関の山。

2018年12月26日水曜日

師走の「ハセガワさん」

その夜は、知らない顔のグループと、またべつのグループがにぎやかに宴をしていた。
最初の客が引けて、マスターもママものんびり一服している。
私は隣の人妻と話しながら、次はなにを飲もうか考える。

「おーいママ、俺のたのんだの、忘れてへんか」
「あ、忘れてた」
「やっぱりなぁ、なんかくつろいでるからおかしいなぁ思て」
「ごめんなさーい、でも伝票には書いてないから安心して」
「当たりまえや、ハハハ」

なんてことのない会話を聞きながら、なにかを感じた。
師走感だ。
それも、いそがしい師走のすきまにある、間延びした時間。
この感じ、好きなんだよなぁ、と熱燗をたのむ。


「それじゃハセガワさんと変わらないじゃない」
「ハセガワさんとこに行ったときにさ」
「やっぱりハセガワさんってもんだよ」
「そこはハセガワさんでないと」


お銚子を受け取った手が止まる。
会話の主は、背後の見知らぬ顔のグループだ。
いや、「見知らぬ」ではなく、いつも背を向けていて気づかなかっただけで、これまでの「ハセガワさん」についての話しも、彼らだったのではないか。

おそるおそる振りかえって、そっと顔ぶれを見てみる。
しかし、やはり見知らぬ顔ばかり。

「ハセガワさん」はどうやら、人望があって頼りにされている人物らしい。
自分でないことは火を見るより明らかだが、それにしても魅力的な人物に思える。
ハセガワさんはこの酒席に加わることはないのだろうか。
もしや、うちのハセガワのことではないだろうな。


遅くなりましたが、「深川福々」最新号は既に配布されております。
大江戸線・清澄白河駅では季節ごとに異なるPOPも。
墨田区内の配布も完了しました。
今回は編集会議の日にちを一日まちがえ、作業にも参加できず、ただ配布だけをした、だめ人間であった。



クリスマスは終わった。

「ものに執着しなくなった」と言った舌の根も乾かぬうちに、急に物欲のカタマリになったため、落ち込むほどに自分に貢いでしまった。
ま、なにに対しても興味のわかなかった期間の分の、穴埋めだと思って・・・

2018年12月19日水曜日

グレてやる

しくじった。
へじった。
ヘタこいた。

ずっと楽しみにしていたCD、フラゲどころか、発売日当日になっても手に入らない。
それは、おのれが入金するのを忘れていたからに、ほかならない。
これからは、きっとこのCDばかり聴くようになるだろうな、なんて思っていたのに。
これでは、年を越すことなんてできない。


などと、ヘンな気を起こす前に


気を取り直して、「メンキー&ノンキー」で、冬のおしゃれをしよう。
クリスマスには、あえて着物を。
プレゼント柄の着物に身を包むだけで、特別な一日になります。



・・・そういえば引越しの際に、要るものも棄ててしまったことを思い出した。

連日の寝不足でもうろうとしていたとはいえ、これからは冬になるたびにこれを着ることができるんだ、と愉しみにしていたあれこれを、気前よく棄ててしまったなんて。

しくじった。
へじった。
ヘタこいた。

2018年12月17日月曜日

歳をとって よかったこと

歳をとって、よかったと思うこと。
モノに、ひとに、いろいろに、執着しなくなったこと。
大切なものは変わらないけれど、ま、いいか、と思えることが増えた。

それでも、ふとした瞬間にまた会いたくなってしまう彼。それは
台北の花市場でみかけた、台湾土犬。
adidasならぬadidogのパーカが、彼のからだの色と合っていて、おしゃれだった。
(そもそもしっぽを巻いていたので、彼か彼女かは不明なのだけれど)

そして
オイッス!
と、同じ花市場で声をかけてきた彼。
不気味なようでいて、底抜けに自分勝手に明るいところが、今になって気になる。
(そもそも植物なので、彼か彼女かは不明なのだけれど)


また会いたい。
そう思ったら、すぐに会いに行こう。
「はっしゃオーライ!」のクリスマスタクシーに乗って。
会いに行けるうちが、ハナですよ。
ラジオから流れるクリスマスソングやイルミネーションに、いいなぁとほほえむことができる大人になれて、よかった。
(クチでは一応ディスってるけれども)

2018年12月14日金曜日

プロ雀士はメランコリック

はとたちがパンくずでサッカーをしているのを横目に、いつもの道を急ぐ朝。
昨夜、酒場で隣り合わせた、食欲のないプロ雀士のことを思い出す。
ママとジビエの話をしていたら
「ボクにはねぇ、食欲ってものがないんだよ」
と、プロ雀士は唐突に話し出した。

彼の前には、レモンサワーと食べかけのあじの開き。
何杯飲んだのか知らないけれど、おつまみはそれだけなのだろうか。
おなかが空くことはないんですか、と尋ねると、あるけど食べるのが億劫でね、と言う。
人間の三大欲求のひとつの「食欲」がないとは、いったいどういうことなのか。
興味を持って次々に質問をした。

三大欲求のうち、ふたつについては聞いたが、その次はやめておこうと思ったら。
反対側の隣で既にでき上がっていたゴルチェとその仲間たちが、食欲と睡眠欲を除いたもうひとつについて、あっけらかんと訊いてきた。

そういえばゴルチェも、女性を泣かせていたな。(しつこい)
覚えてるんだぜ。(しつこい)
枯れているように見せかけてゴルチェも・・・(やめとけ)
禁断の4杯めを飲み干して、お先に、とあいさつしようとしたら
「おにぎりとメンチね」
とプロ雀士。
食欲がないって、どのクチが言ったんだ~!
と心の奥で叫んだのは、言うまでもない。

2018年12月12日水曜日

台北マラソンと、またも開かれなかった本

しばらく国際線に乗ることがなかったため、出国手続きがシンプルになっていることを知らなかった。
時間をもてあまして、ひとまず一杯やることにする。
外の飛行機を眺めながら、あっという間に一杯めが空になった。
よって、もう一杯。
本を読み始めるもなかなか時間は進まず、場所を変えて新たにもう一杯。
ここは飲み屋さんじゃないんだぞ、と自分に言いきかせる。
機内では、離陸の瞬間からウトウト、機内食を食べている最中もウトウト。
読みかけの本は床に落ちていた。



今回の旅の目的は、台北マラソン。
台北在住の妹にすべてまかせて、私の仕事は無事に完走して、待ち合わせ場所へたどりつくこと。
フルマラソンは人生二度め。
今でも辛さが忘れられないくらい苦しいレースだったけれど、「加油!」「加油!」と応援してくれた沿道のみなさんの笑顔の方が、忘れられない。
そろそろ、いい思い出にすりかわりそうかな。


帰国寸前、羊歯の生い茂る場所へ連れていってもらった。
台湾には、日本統治時代の建物がそのまま残されていて、飲食店や書店、雑貨店やライブハウスなどが入っている。
元酒造工場と、元たばこ工場、どちらもしっとりした空気に包まれていた。
回廊、という言葉がしっくりくる長い廊下の途中で、静かに涙を流しているひとがいた。しっとり、ひそやかなこんな場所で泣くのもいいな、などと不謹慎なことを思った。


今回は白い花を売る花売りに会えなかったけれど、どこにいても、いつもその香りが漂っているように感じた。
連れていってもらった、おそろしく急な階段のバーでもその香りが漂っていたのでお店のひとに訊いたら、特に香りのするものは置いていないけど、と首をかしげていた。
台湾は、白い花の香りのイメージ。



帰国した翌日、尊敬する友から連絡があり、ふたりで行くのは初めての、いつもの酒場へ。
さすが尊敬する友。
すぐに同じテーブルの常連さんともうちとけて、杯を重ねる。

いつも会う紳士は仕事で台湾によく行っていたとのことで、しばし台湾話で盛り上がる。
しまいにはご自慢のジオラマを見せてもらいに、その紳士のお家にお邪魔して焼酎を一杯ごちそうになった。

見事なジオラマ部屋とすてきなお家、あれは夢?

2018年12月6日木曜日

探さないでください

旅に出るのだ。「こうもりエアライン」に乗って。
つまり、到着は深夜。
遅々として進まない荷造りも、佳境に入った。


やるべきことがあるときに限って、掃除洗濯に熱が入るという人がいるが、例外なく私もわざわざ飲みに出かけたり、ていねいにお弁当をつくったり、洗濯ものと洗濯ばさみの色を合わせて干したりと、現実逃避。
旅の気分を高めてくれる本は、忘れずに。
機内誌はすみずみまで読むべし。
あこがれの航空会社の飛行機に乗るときは、紙コップやナプキンなどをもらうべし。
(べし、ってほどでもないか)


夜の銀座も胸が弾むほどきれいだけれど、あちらのクリスマスムードはどんなかな。
ホテルに連泊するのも久しぶり。


彼の地では、すでにセールも始まっているらしい。
着古した洋服は棄てて、いっちょイカしたやつを仕入れてこよう。
(いっちょもイカしたも死語です)


糸の切れた凧のように、戦うように楽しんできます。

2018年12月4日火曜日

開かれなかった本3冊

用もないのに帰省。
用はなくとも、文太くんに会いたかった。
文太くんお気に入りのコースを、一緒に走りたかった。
あと、いろいろに疲弊していたのかもしれない。
(いろいろイコール飲みすぎ)
用はなかったので、思いつきで同級生ふたりに連絡して、朝ジョグをキメる。

ひとりは保育園からの、もうひとりは中学の同級生で、どちらもほとんど口をきいた覚えはない。
40歳の年におこなう厄年会なる行事で再会したときも、たしか口はきかなかった。なのに、それから数年後には一緒に走っているのだからおもしろい。

こんな遠い道のりを、よく9年間も歩いて通ったよねぇ、とか市民プールがなくなったんだよ、とかこの道は先月開通したんだ、とか話しながら、市内を端から端までゆっくり走る。


「信州に帰ってきたんだから、日本酒飲んでもらわないと」と、その晩は彼らのなじみのお店に連れていってもらう。
やっぱり信濃鶴でしょ、という同級生の顔を不思議なココロモチで見る。
あのコドモが酒の話ししてるよ、とおかしくなった。
連れていってもらったお店では、噺家さんが高座を終えて一杯やっていた。
訊くとこのお店ではよく落語会をおこなっているとのこと。
席亭は、小学校の同級生であった。

同級生ふたりと当時の打ちあけ話をして悶えていると、隣に座ったひとがなにやら話しかけてきた。同学年の、離れたクラスの男子であった。

なぜか信濃鶴でも七笑でも夜明け前でもない秋田の酒を空けて、中学の同級生の奥さまの運転で送ってもらう。

翌朝、淀んだ頭をかかえて文太くんと走りながら考えた。
いくら狭いこのまちでも、世の中狭すぎやしないか?
のんびりするつもりで帰省したのに、いつも以上に飲んでしまったではないか。
行きも帰りも、車中で読むつもりだった本は、開かれずじまい。