2021年7月29日木曜日

会津柳津

その場所には夏に訪れるようになったがいつも日帰り。いつか夜の景色も見てみたかったし、しばらくこんな旅はできなくなるので思いきって今回は1泊することにした。

草いきれでむせそうな田園を只見線の車窓から眺めながらうとうとしているうちに到着。懐かしい駅舎をしばらく眺めてから道を下っていくと、あわまんじゅうをふかす湯気が見えてきた。朝早いために人は歩いておらず去年も会った犬が気だるそうにこちらを見たのでオッスとあいさつしてマスクを外した。久しぶりの感覚だった。
観光地といえばそうだけれどどことなくひそやかで厳かな雰囲気のあるまち。しばらく坂を下ると只見川が見えてきて思わず立ち止まる。そういえば遊覧船があったなと思い出して今回はそれに乗ることにした。
只見川が深い緑色なのは川が深いのとまわりの木々が映るからという説明に感心しつつ船に乗るときにもらったエサをまくと、うぐいが大勢やってきて大騒ぎ。ここのうぐいは神聖な魚なので一応神妙な面持ちで見つめた。
冷たい風に吹かれてうとうとしているうちに船は終点へ。それからいつも何度も寄る大好きな道の駅でずっと気になっている山菜の缶詰めセットをじっと見つめたのちにお蕎麦。博士山という山の麓の蕎麦なので博士そば。ズッキーニの天ぷらもお蕎麦もとても美味しくてゆっくり食べた。
旅の目的の斉藤清美術館はそのとなり。今回は作品名も時期も表示がないイレギュラーなもの。先日友だちから花が咲いたとメールをもらったまさに月下美人の木版画がありじっと見つめた。ねこが窓辺でなにかをじっと見ていて開花に気付いたらしい。香りが漂ってくるようだったがまだ私はその香りを知らないのであった。
ほとんどの観光客がそれを目的に来る「福満虚空藏菩薩 円藏寺」は何度行っても何度文字を追っても名前を覚えられない。急な石段をふうふう上ると汗が噴き出した。お堂をゆっくり回って山ゆりの匂いにむせ返りながらひと気のない奥の院まで行ってみたがお参りをするのを忘れた。汗がべたつくのでまちなかの湧き水を柄杓ですくって手を冷やしてはまた歩く。
まだ少し早いけれど高台の宿へ向かった。宿坊だった宿がいくつかある中で選んだそこは、古いけれどきれいに掃除がしてあり障子窓を開けると只見川。しばらく仁王立ちで外を眺めてから酒を求めてスーパーマーケットへ。そこで選んだ地元のおかず 車麩の煮つけは疲れが飛ぶほど美味しかった。夕食にいかがですかと宿で用意してもらったソースかつ丼も、私の田舎のものともまた違って美味しかった。地酒を啜りながら障子窓を開けてとろりと黒い只見川を見たり本を読んだり温泉に入ったり。

ぐっすりねむった翌日はもうひとつの目的である諸橋近代美術館に向かうため早朝にさようなら。名残惜しいったらなかった。
今度は寒い季節にも来てみようと思ったが、ここは日本屈指の豪雪地帯なのであった。

2021年7月27日火曜日

いつまでもあると思うな

旅の初日。
マンネリが好きなもので、夜行バスに揺られた朝はいつもの駅そばをキメようといそいそ向かうと果たしてそのお店は閉店していた。隣の大きめの食堂もなくなっており今月22日に新しいお店がオープンすると貼り紙が。22日、もうとっくに過ぎているじゃないの。
最後の日に、そういえばこの駅の外にラーメン屋さんがあったなと向かうとそこも閉店していた。しかし空腹のあまり感傷に浸る間もなく次なるお店を探す。

よせばいいのにどうしても欲しかった山菜の缶詰め(大)セットを手に入れたせいでリュックはとんでもない重さだった。着替えも化粧品も「センセイの鞄」のツキコさん並みに最小限にしたのに。そんな重いリュックを担いでこの日は朝8時前から歩き回っていたのだが、まともな食事をしていなかった。朝食はふかしたてのあわまんじゅうだった。開店前でまだ蒸らしてないからあんこが熱いよ、と言われたそれを大好きな只見線の中で食べた。今までで一番美味しかった。それから電車とバスを乗り継いで向かった美術館ではチケットを購入するやいなや踵を返して併設のカフェで何かをむさぼり食った。美術館の外の素敵な庭を眺めることができる特等席で何かをむさぼり食う人はほかにいなかっただろうし何を食べたかは覚えていない。作品はとてもよかったし余った時間に歩いた森の中も楽しかったがお腹は空いていた。バスで駅まで戻ったものの次の電車が来るまで炎天下をふらふら歩いているうちに耐えきれずセブンティーンアイスの何かを食べたことを今思い出した。
そこからまた電車に揺られて件の駅の外のラーメン屋さんにも振られたわけだが、駅前に古い食堂を発見して突撃。そこで食べたラーメンは醤油味と書いてあったがどう考えても塩味でそれがとても美味しかった。なぜか一緒に頼んだ冷酒と納豆もよかった。
しかし前日に見つけて慎重に持ち帰ったなんともいい雰囲気の納豆は、今までに食べたことのない強烈な匂いと味で二口で箸が止まったのであった。

2021年7月26日月曜日

ふたりでおそばを

早めに家を出ることができた連休前日、いつもの朝ソバへ。

入れ代わりにお客さんが出ていって店のおかあさんとふたりきり。明日から休みだろ、と言われたのでハイ、こちらもお休みですかと訊ねると、だってこのへんだぁれもいないもん、天ぷら揚げても棄てなきゃならないからさ、と言うので思わず箸を置いて、もったいない!と叫ぶと、ふふふ、女性はそう思うよねとおかあさんは微笑んだ。

深夜には旅に出るのだと思うと気持ちは昂る。
それがたとえ連休の終わった翌日であっても、あの気持ちはいいものだったと思い出せる。

2021年7月18日日曜日

いったいなんだったんだ

わけもなく早起きしてしまった休日。
暑くなるのはわかっていたためランのお誘いは鄭重にお断りしたが、やることやって手持ちぶさたになったので重い腰を上げて映画館へ行くことにした。子どもの頃以来の二本立て。あのとき観たのは「天国に一番近い島」と「Wの悲劇」だったと思う。
入道雲がむくむくしている暑そうな空を、空いている涼しい山手線から眺めながら映画が終わったらあのお店に行ってみようなどと考えてわくわくしてきた。
映画館に到着してチケットを求める列についてかばんを漁ると、財布がない。先日失くして戻ってきた財布がない。また忘れたのか自分。ひどい暑さの中はるばるやって来たのにただ帰るしかないのか、とSuicaをじっと見つめると思い出した、ジョグのときにSuicaケースに千円札を入れたことを。あとは小銭をかき集めて無事席に着くことができた。
観たかったのは2本目だったが1本めが思いのほかよくて満足したのはいいが喉が乾いた。しかも美味しそうな食事シーンが続いて空腹だ。しかし本命の2本めの映画を観終わるまでは辛抱だ。
2本めの映画はほぼ満席で期待は高まった。が、雄大だがさほど美しくもない景色の連続に気付けば2度意識を失い博打のシーンで目が覚めた。博打自体はどうということのないイカサマだったが、合間に立ったまま女性たちが掻きこむどんぶりの中身が気になった。今宵こそはウン年越しのうなぎでキメるか、それともすごくいい肉を買うか、頭と口の中はよだれでいっぱいでエンドロールが長く感じた。
帰り道は美味しそうなものがいっぱいだったが今の私には小銭少々とSuicaの残額¥500しかない。radikoを立ち上げて千秋楽の最後の一番に耳を傾けたがどこか上の空。結局私には食欲しかないのだなと帰宅するや否や台所に転がっていた財布をつかんでスーパーマーケットに走ったのであった。

2021年7月14日水曜日

しばしのさよならと

再開したかと思ったらあっという間にまたしばしのさよなら。
好きな酒場へあいさつに出かけた1週間。週末に出かけた酒場には翌日の昼にも行った。自家製チーズが美味しくて、今までそれを知らなかった自分を恨んで5回も注文した。翌日はラン友たちと皇居を4周、のつもりが湿気がひどくて3周と少し走って酒盛りランチ。それから帰宅し1時間寝て、近所の飲み友だちに誘われて「おいてけ堀」のマスターや常連さんたちとしみじみ飲んだ。
厳選されたメンバーに選ばれたのはなぜかと思ったら、よく飲むからだって。ありがたきお言葉。

これからまたあの自粛の日々が始まるのだなぁと気持ちを引き締めて本を読み始めたら3冊も読んでしまった。リピートも含めたら5冊。このペースで読み進めたら本が足りなくなるので、ひとまず走りに出た。
実は先日、久しぶりに頭が痺れるほど悩むできごとがあった。悩んでいるうちはともかく、解決したとたんにまた次の悩みごとが生まれて何をしていても頭から離れない。気付くと都内でもかなりの大型のホームセンターでじっと鉢植えを見ていた。その花の名はジャマイカンジャスミン。初耳だが実はジャスミンティーに使うものらしい。あまりに香りがよくて3回匂いを嗅いでその後他の場所を見て回って戻りまた2回匂いを嗅いだ。とても欲しかったがまだこの時点で5kmほどしか走っていなかったのでランを再開。途中で飲んだ桃のスムージーがおいしかったが悩みはなにひとつ解決していないのであった。

2021年7月9日金曜日

かわいい文豪たちと過ごす

我が家のくちなしの最後のつぼみが開いた。
ゆっくり、長く咲くんだよと言い聞かせたおかげで今年はみんなずいぶん長く咲いてくれた。

しかしこの香りも、鼻が悪ければわからない。
鼻炎がひどくなってきたので労働先の近くの耳鼻科へ行くも臨時休業。それでは自宅近くの耳鼻科へと急いでいたら「おいてけ堀」での飲み友だちから珍しくお誘いの電話。来週からはまたしばらく会えないので、耳鼻科を捨てて「おいてけ堀」へ。
この日はいわし刺が美味しかった。
それから近所のお豆腐屋さんがやってきて三人で宴会。お豆腐屋さんは自分が考えていたよりずっと早起きで、そして彼が早朝の配達中に通る「レストラン両国駅」が、今日誘ってくれた飲み友だちの行きつけと知って驚いた。
こんな楽しい時間もまたしばらくおあずけ。今度の自粛期間は本を読むのだ。

先日のアトロクでの特集がおもしろくて、聞き終えてすぐに「オロロン書房」に走って手に入れた本「文豪たちの美味しいことば」がとてもおもしろかった。
小泉八雲の言葉が特によかった。
そのずっと前の特集「文豪たちのずるい謝罪文」もおもしろくて、やはり「オロロン書房」へ走った。内容もさることながら、著者の山口謡司さんの語り口と文章(イラストまで!)がとても気に入ってファンになったし、有名だからこそ敬遠していた文豪たちの著書を読みたくなった。
酒は控えめに・・・できるだろうか。

2021年7月7日水曜日

にゃあおん

夜、ほどよく酔ってベランダへ出ると、近いような遠いような場所からねこの声が聞こえる。野良ねこはほとんどいないはずだけれど、こんな時間に大声で鳴いていると心配だなと常々思っていたら。ある休日、上の階の方が下りてきたと同時に持っていたキャリーバッグから聞き覚えのあるねこのダミ声。これはあのねこの声だとわかって安心した。年をとると変な時間に大声で鳴くというが、君がにゃあおんだったのか。

日中ボケッと過ごしてから唐突に仕度して、じゅんさい池に向かって走った。相撲中継の始まる時間に帰ることができるか不安だったが、走り出したら気持ちよくてすぐにじゅんさい池に到着。かつてはじゅんさいが採れたらしいが昭和の始め頃に池がだめになってしまい地元の方々の要望でつくり直したとのこと。梅雨時ということもあるがしっとりした静かな緑地公園で、保護のため昆虫にしかわからない光を発する場所もあるらしい。蚊は多そうだが、いっぺんに気に入った。
相撲中継が始まる時間になりラジオを聞きながら帰宅ラン。河川敷で美しい三毛ねこを発見してじっと見ると耳がカットされており安心した。
「ニューねこ正」では、ご家族に不幸があって再開初日にはいなかったお兄さんがいつもの大声で働いていた。いつ言葉をかけようか迷って結局お勘定のときに小声で話すと、おれ、ちくわがいて本当によかったですよ、とお兄さんが言った。ちくわとはお兄さんの家のねこ。うんうん、わかりますよと頷いてさようなら。まわりの人は不思議な顔をしていた。

2021年7月5日月曜日

あきらめのミキサーとフライパン

飲み友だちに誘われて、坂東玉三郎のお話と素踊りを観に行く。
自慢じゃないが歌舞伎には三度行って三度寝たほどのダメ人間だ。今回は大丈夫だろうかと不安だったが、満員御礼のホールに現れた玉さまは性別どころか人類を超えた圧倒的な存在感であった。明るいグレーのスーツをお召しになった玉さまはその佇まいからして美しく、ふと振り返った背中さえ儚げで、一挙手一投足を見逃すまいとガン見。それにしても「お話」とはなんぞやと疑問に思ったが、お話はお話なのであった。和やかに進むお話は、たまにハッとさせる強い目と言葉に釘付けになっているうちに終わった。
そのあとの早口言葉のようなラップのような地唄に驚いているうちに、衣裳などをつけずに紋服で踊る素踊りというものが始まった。微かでしなやかな動きに、こりゃ体幹がしっかりしていないとできないなと思った。(なんてつまらない感想!)
先ほど玉さまが仰っていた毎朝のルーティーンを真似ようと決意し、飲み友だちと「おいてけ堀」へ急いだ。

別の日、友だちとの待ち合わせ場所であるホームセンターに到着すると同時にスマホを忘れたことに気付いた。背に腹は変えられずタクシーで往復。運転手さんがいい人でよかった。友だちとは無事に会えて井戸端会議。生そうめんの話ばかりしていたのでお昼は徳島出身の友だちにもらった半田そうめんにした。

玉さまは小松菜と果物のスムージーを毎朝必ず飲むらしい。小松菜は好きだがスムージーよりは油揚げとの煮びたしの方が好きだなぁ、といくつもお店を回ったのにミキサーの購入は断念。ついでに大好きなピーマンの天ぷらをつくるため、ずいぶん前から探していた小さめのフライパンも、どうせ作らないなと気づいて断念。