2018年11月28日水曜日

五夜連続と二夜連続、そして30周年

お気に入りの場所には、連日でも行きたいもの。
それが、おいしいものを出してくれる感じのよい飲み屋さんなら、なおさらである。
かつて、5日連続通ったのが「ニューねこ正」。
それでも飽きずに、定休日をはさんだ翌日にまたのれんをくぐったものだ。
同じひとでも、同じお料理でも、まったく同じということはないのだから、おもしろい。
先日、ついに2日連続登場してしまったのが「おいてけ堀」。
こちらは「ニューねこ正」とはまた違って、お客さん同士がほぼ顔見知り。
たまに友だちを連れていっても、ものの数分でなじんでしまう。

毎朝橋の上ですれちがうおじさまが、マスターのいう「TVの見えない最低の席」をあたためていて「このひと、毎朝すれ違うよ」と私を指さして、なぜかマスターに言う。
ジャン=ポール=ゴルチェに似たこのおじさまが、女性を泣かせていたのを以前目撃したことがある。さすがゴルチェ、やるなぁ、と不謹慎なことを思ったものだ。
(正確には、気付いたら女性が泣きながら席を立ってしまった、という状況であった)
幸いほかにお客さんもいなかったのでもっと話したかったが、そのときTVでは大相撲九州場所を中継しており、ついそちらに釘付けになってしまった。
熱しにくく冷めやすいな、と不名誉な言葉を頂戴したことのある私でも、好きな本は何度も読む。先日のがっかり映画とちがって、昔から好きだった本は、何年かたって再び読んでも新しい発見がある。
お風呂で読む本と眠る前に読む本、長時間乗りものに乗るときに読む本、気持ちが不安定なときに読む本、「両国図書館」には、すべてそろっているから、ありがたい。



くりかえし行くお店と、くりかえし読む本、そしてくりかえし聴く音楽。
変わらないこれらのものをつくるのは、どれだけ辛抱が必要なのだろう。
変わらないけれど進化している大人たちの、30周年の集大成ともいえる展示を観に行って、しみじみ思ったことである。

2018年11月20日火曜日

ブレないぜ

秋晴れのとある日、「フカガワヒトトナリ」というイベントの第1回めで、尊敬する友主宰の鹿肉WSにご招待いただいた。
さすが尊敬する友。今までのトラウマがいろいろな意味で払拭された。
内もも、外もも、芯玉の三種類を、ばつぐんのロケーションでにぎやかにいただく。
初対面の方ばかりであったが、さすが私の尊敬する友。いいひとしかいなかった。



それにしても、怒涛の2、3週間であった。
こんなに飲み会が続くのは初めてではないか、というほど続いた。
おかげで、読みかけの本がちっとも進まず。
夜のひそやかな愉しみを味わうことなく、即寝の毎日。
酒と酒の日々(薔薇はなし)もいいけれど、やはり眠る前のわずかな時間には、本を読みたい。
両方を満たすことができるのは「両国図書館」。
ブランデーを舐めながら、読み始めてからずいぶん放置してあらすじを忘れた本を最初からきちんと読む。
これこれ、この時間が足りなかったんだ。


たこ1:足りないものは、ほかにもあるでしょう
たこ2:脳みそとかね

パンダ1:やっと自分がブレてたことに気付いたみたいね
ひよこ:今朝がた、唐突になにかに目覚めたらしいよ

朝青龍:起きるなり、唐突に本を読み始めてたもん、あのひと
だるまちゃん:唐突なのは、いつものことです

2018年11月13日火曜日

すべては笑われる景色

しばらく会えなくなるひとに会った。
互いに疲れていたので、薄いお酒に淡白なおつまみ。

「看板あげるから、つぎはあなたがやりなよ」

大切にしてきたお店を閉じる決断をしたそのひとが、笑いながら言う。
私にこの名前は荷が重いですよ、と大きく首を振った。

そのひとと私にとって、とても大切な名前がまた消える。
さみしくは思うけれど、生きていてくれればそれで大丈夫。
お店終わって体調崩すかもしれないけれど、風邪ひくくらいにしてね、とだけ念を押した。

別れぎわは、やはりくっだらない話しをして、いつものように別れた。
別の晩、ずっと行けなかったいつものお店へ登場。
「いちばんいいとこ入れといたよ」と板さんがお刺身を差しだす。
あんきもにしようかなぁ、と言うと「蒸したてだからおいしいよ」と大将。
「たい焼き、未亡人会のあのひとからもらったから一個あげる」と美人女将。

こんなに落ち着く場所がありながら、しばらく浮気をしていたなんて、口が裂けても言えない。
今度からは心を入れ替え・・・ようにも、浮気だったはずのあちらのお店にも、既に根を張ってしまった。
好きなお店が増えるのもナニだなぁ。
などと考えながら、勢いづいて「BAR GABGAB」へ。
腰を下ろすなり
「あれから、落ち着かれましたか」
バーテンさんが尋ねる。
なんのことかな、と首をかしげると
「あ、落ち着かれたんですね、それならよかったです」
あの、相方さん・・・ていうか、と言いづらそうにしているので、ああ、私たちのこと覚えていてくれたんだ、とうれしくなった。


ところかわって
ハロウィンが終わって、ブル親子は新たなおしゃれに挑戦していた。

2018年11月7日水曜日

汽車旅の本あるいは酒

西へ向かうときには、西の作家の本を読むのだ。
そう思って、古いのに古くさくない、西の作家の本を携えて出かけた。
朝の新幹線のホームは、高揚した空気に満ちている。
つられて高揚して、マラソン大会に出かけるというのに、ビールを手にとってしまった。
プルタブを上げるのは、新幹線が動き出してから。
朝シャンならぬ朝ビールは、ちびちびやりたいところ。
駅弁を食べるほど空腹でもないので、西の作家の本を開く。
窓の外と本に、交互に目をやる。
ちょっとだけ、吉田健一になった感じ。





帰りの新幹線の構内はひどく混雑していた。

マラソン大会を終えて、ひとり祝杯をあげる気まんまんであったが、車内販売が来ない。
右隣のひとは熟睡している。
左隣のひとは、新幹線が動き出すと同時にビールを飲み始めている。
私のカラダはビールを求めている。
しかし、車内販売は来ない。
左隣のひとは、先ほどから3回もポテトチップスを通路に落としている。
車内販売は来ない。
音楽を聴いて気を紛らわせる。
車内販売は来ない。

耐えきれず、おみやげのにごり酒に手を出す。
新幹線では日本酒の類は飲まないと決めていたが、背に腹はかえられない。
ちびりちびりとにごり酒を啜りながら、おみやげのおせんべいにも手を出す。
なんだか、へんてこな祝杯になってしまったな、と可笑しくなったけれどまあよかろう。
しかし西の作家のこの本はおもしろいなぁ、としみじみページをめくっていると、ついにやってきた車内販売。

結局5回もポテトチップスを落とした左隣のひとを起こさぬように、そっとビールを求めたのは、いうまでもない。

2018年11月2日金曜日

日本シリーズにGは出ていませんよ、とは言えなかった夜

毎度おなじみの酒場へ登場。
ひとつだけ空いていた席にすべりこむと、「そこだと、テレビ見えないでしょう」と、マスター。
そういえば日本シリーズをやっている。
すぐ隣には酩酊した老紳士。
野球といえば、東京ドームのほど近くの友だちのお店で、その日敗けたGファンのお客さんたちが肩を落として飲んでいるなか、アンチGのフンド氏が、それと知らずに大声でGをディスりにディスって、お客さんたちがみな帰ってしまった夜を思い出す。
たのむから、ここでGのワルクチ言うなよ~と懇願していた、彼の友だちの顔も。

「失礼ですが、どちらを応援しているのですか」
酩酊紳士が尋ねてくる。
う~ん、なんとなく見てるだけです、と力なく笑う。
「こちらにはよくいらっしゃるのですか」
酩酊紳士が尋ねてくる。
「常連さんだよ」
なぜか、マスターが答える。

いつの間にか「常連さん」になっていたのかぁ。
フンド氏が聞いたら呆れるだろうなぁ。
Gファンの酩酊紳士は上機嫌で、まだなにか話したそうだったので、私スポーツは相撲しか見ないんです、と言うと、顔を輝かせた。
「私は生まれも育ちも両国です 木村庄之助は後輩です」
それから出るわ出るわ、式守伊之助だの栃錦だの初代若乃花だのの秘話が。
熱心に見ていた日本シリーズ、点が入ったことにも気付かずに、酩酊紳士は口角泡を飛ばして、キングス江戸弁とでもいうべき正統派の江戸弁で、おもしろい話しを聞かせてくれた。

酩酊紳士が帰り、「席うつりなよ」とマスターがしきりに言うので、お言葉に甘えて移動。
空いた席にママが座り、細い指にショートホープをはさんで紙にペンを走らせる。
煙を吐くさまが、なんともかっこいい。
その晩、店を出ていつものように小窓の向こうのマスターに手を振ると、ママも一緒に手を振ってくれた。

仲のいい夫婦っていいなぁ、ぼくたちみたいに、と言っていたフンド氏を思い出す。
両国に住んでいてよかった、と思える瞬間。