2018年11月7日水曜日

汽車旅の本あるいは酒

西へ向かうときには、西の作家の本を読むのだ。
そう思って、古いのに古くさくない、西の作家の本を携えて出かけた。
朝の新幹線のホームは、高揚した空気に満ちている。
つられて高揚して、マラソン大会に出かけるというのに、ビールを手にとってしまった。
プルタブを上げるのは、新幹線が動き出してから。
朝シャンならぬ朝ビールは、ちびちびやりたいところ。
駅弁を食べるほど空腹でもないので、西の作家の本を開く。
窓の外と本に、交互に目をやる。
ちょっとだけ、吉田健一になった感じ。





帰りの新幹線の構内はひどく混雑していた。

マラソン大会を終えて、ひとり祝杯をあげる気まんまんであったが、車内販売が来ない。
右隣のひとは熟睡している。
左隣のひとは、新幹線が動き出すと同時にビールを飲み始めている。
私のカラダはビールを求めている。
しかし、車内販売は来ない。
左隣のひとは、先ほどから3回もポテトチップスを通路に落としている。
車内販売は来ない。
音楽を聴いて気を紛らわせる。
車内販売は来ない。

耐えきれず、おみやげのにごり酒に手を出す。
新幹線では日本酒の類は飲まないと決めていたが、背に腹はかえられない。
ちびりちびりとにごり酒を啜りながら、おみやげのおせんべいにも手を出す。
なんだか、へんてこな祝杯になってしまったな、と可笑しくなったけれどまあよかろう。
しかし西の作家のこの本はおもしろいなぁ、としみじみページをめくっていると、ついにやってきた車内販売。

結局5回もポテトチップスを落とした左隣のひとを起こさぬように、そっとビールを求めたのは、いうまでもない。

0 件のコメント: