コーヒー豆は「喫茶ニャーゴ」と決めているが、旅先で自分のために選ぶコーヒーは別もの。
用事がありごくたまに行く海辺の街で通りかかった小さなコーヒー屋の扉を押す。
コーヒーは大抵その店のブレンドに決めることが多いがそこにはブレンドはなかったので、コーヒーは好きですけど全然詳しくないので教えてください、と言うと、深煎りがお好きですか?と訊かれ、いえ、たぶん深くないほうが好きですと応えると、フルーティなのはいかがですか?果実がついたまま焙煎するとフルーツのような味になるんですよ、と言われてそれは飲んでみたいと思い即決。改めて店内を見回していると、あ、このコーヒーもフルーティでミルクを入れるとロイヤルミルクティーみたいになるんです、と言われて唸る。ではそれもお願いしますと言ってコーヒー豆をすっかり挽いてもらうまで用事があった場所で用足しをすることにした。
翌朝ていねいに淹れたそれは、本当にフルーティな味わいのコーヒーであった。
別の日、やはり用事があった場所へ行ったのちにそこの一階の、いつもは通りすぎるだけのカフェでなにか飲みたくなって店主おすすめのマダガスカルのココアをいただく。普段はアルコール以外はテイクアウトしかしないせっかちな性質なのにどうした風のふきまわしか。
おすすめのココアとはどのようなものか訊ねると、フルーティな味わいとのこと。マッチさん(私のこと)はコーヒーがお好きだからどうかなと思ったんですけど、と差し出されたそれを口にすると、今までに飲んだことのない甘くないフルーティな味わいのココアであった。そのままでも十二分に美味しかったが、残りわずかになったらお砂糖を入れるとまた美味しいですよと言われたので忘れずにそうしてみたらこれまた味わったことのない味に。
同じ日に異なるフルーティな飲み物を味わって、悩んでいたことを一瞬忘れた。
美味しいものってちょっと怖い、とポルトガル人ガイドが主人公に言っていた小説を思い出したが、悪い気は少しもしなかった。
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