カウンターに腰かけて、お魚はなにがおすすめですか、と訊ねると今日のかつおはうまいよ、切りながら秋のかつおみたいだなぁと思って自分の食べる分よけちゃったもん、と大将はどんぶりの中のかつおを見せてくれた。
瓶ビールを注ぎながら天ぷらは何にしようかなとメニューをにらんでいると、突き出し出すから待ってな、と見事なえびフライを3本も揚げてくれた。
しばらくして、かつおをメインに2、3人前はあろうかというボリュームと内容の刺盛りを出してくれた。これは熱燗でしょうと決意。かつおはもちろん鯛や平目やかんぱちまで、おや、これはと思わず大将を見ると、ウニもしっかり入れといたよ、とニヤリ。
ずっと大将ひとりだったお店が途中から娘さんやお孫さんが来てお店が回り始めた。
いつも孤独に飲んでんのかい、と大将に訊かれたので、孤独じゃないけどそうですよ、明日のマラソン大会に出るんですと答えてコースマップを見せた。
57㎞も走るのかい、まあこのあたりは平坦だからな、とマップを娘さんやお孫さんに手渡した。へえ、こんなとこまで走るの、田園風景しかないよ、と娘さんたちは目を丸くした。
どこから来たんだい、と訊かれたのであごのマスクを引き上げながら、すみません東京からなんですと小さくなった。嫌な顔をされたらどうしようと身構えたら、しばしの沈黙のあと、おれは世田谷からここへ来てもう40年になるよ、と大将。生まれは三重、と聞いて三重の友だちの顔を思い出した。もう84なのに若いよね、と隣の席のお客さんが言ったのに驚いた。どう見ても80歳代には見えない。
ここはいいところだよ、海も近いし山もあるし、と大将が話すのを聞きながら次は何を食べようか考えていると、娘さんが後ろからそっとお皿を置いて口の前に人差し指。マーボー豆腐だった。和風のマーボー豆腐はなつかしい味だった。
久しぶりの酒場がうれしくて満腹に近くなったがハゼの天ぷらを注文。しばらくすると今度は大将が大きなお椀を差し出した。地元の海苔のお吸い物がたっぷり入っていた。
明日走るのに酒なんか飲んで大丈夫か、と何度言われたか。まだ時間も早いしよく寝たら大丈夫ですとおいしい天ぷらも頂戴してごちそうさま。
いいお店だったな、私も鼻が利くようになったよ、と心の中でフンド氏に自慢して、よせばいいのに仕上げの缶ビールまで飲んでおやすみなさい。
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