2019年3月18日月曜日

旅は終わった

むかしむかし「スナック女将」は、高校を卒業したおんなのこたちの、社会勉強の場であったらしい。
言葉遣いや作法などママやお客さんに叩き込まれて、社会へ巣立つなりお嫁に行くなりしていたとのこと。


先日旅先で連れていってもらった飲み屋さんもそうで、歴代のバイトくんは地元の国立大学の生徒さんのみ。
開店直後からとてもにぎわうお店なので、まじめで信用のおける先輩からの紹介のみ、ということらしい。
コの字形のカウンターの並びで、まだ幼さの残る青年がおじさんたちに囲まれて赤い顔をしていた。この店に連れていってくれた友も、なにやら話しかけている。
向かいの席でひとり飲んでいた紳士が勘定を済ませて立ち上がると、青年は立ちあがって紳士に近づいた。

やあ、と紳士が微笑むと、おかげさまで来週卒業式で、そのあと引越しです、と青年が頭を下げた。
そうか、いまは3月。3月は卒業と旅立ちの季節なのだった。


忙しくていつも疲れていた友は、初対面のひとかと勘違いするほど元気になっていた。
そして一番食べたかった手料理をふるまってくれた。
ばかじゃないの、と呆れられるほど酒を買い込み、笑いすぎて涙を滲ませながら手を振って別れた。濃すぎる旅は終わった。

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