今夜こそはジムに行くのだ。
そう思ってお財布の中身も寂しくしておいた。
なのに、右手は「ニューねこ正」の引き戸にかかっていた。
習慣ってこわい。
「枝豆のおまんじゅう ごまソースがけ」と書かれた短冊が目に留まった。
これはいくしかないな、と短冊を睨んでいると、板前さんが待ってましたとばかりに声をかけてきた。よかったですね、照強、ぎりぎり幕内に残れたでしょう、と言われて、7月が近づいていることに気付いた。
隣の男性のところに、くだんの枝豆のおまんじゅうがやってきた。美味しそうだ。
なんにします?と大将に聞かれ、隣の皿を横目で見ながら、枝豆のおまんじゅうをください、と言った。
やっぱりこれ気になりますよね、と隣の男性はゆっくりおまんじゅうを口に運んだ。おもしろい味がしますよ、とうれしそうだ。
枝豆の話から、週末のキャンプで入手したおいしいとうもろこしの話へ。隣の男性は農業関連の仕事をしているとのことで、野菜のおもしろい話をしてくれた。
板さんは合間に、先日このお店へ来たという北勝富士関とのツーショット写真を見せてくれたり、照強関のちょっといい話を聞かせてくれたり。
枝豆のおまんじゅうは思いのほかボリュームがあったけれど、飽きない味で美味しかった。
ずっとフンド氏と来ていたこのお店にひとりで入るのも、知らないひとと愉しく話している姿も、数年前には想像もつかなかった。年をとると男性はおばさんに、女性はおじさんになるというからなぁ。こうなったら紳士をめざしたい。
思うに紳士とは
相手を思いやり、自分の趣味を愉しみ、決してクソおもしろくないワルクチなどは言わなくて、話がおもしろくて、友だちに愛されていて、行きつけの酒場が数軒あって、それから、それから・・・
悲しいときに何も言わず抱きしめてくれた「ニューねこ正」の美人女将のような人。
美人で男前なんです。
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