2020年9月3日木曜日

下品が足りない

たまにはまじめに在宅の夜。
実家から送ってもらった野菜をああしてこうして、と晩酌しながら考えていたら友だちグループからメッセージが来ていたことに気付いた。

このグループは年齢も職業もいろいろもまったく違う不思議な三人組。ランで知り合ったのだが、タイムもやる気もまったく違うのにたまに会っては肉を食べる不思議な仲。
あるとき、誰かがふと発した下品発言から口を開けば下品な話ばかりするようになり、それがまた近年見かけない好もしい下品ぶりで会うのが愉しみになった。しかもふたりは美男美女。しかし約束はコロナの蔓延のせいで何度も流れ、今ではメッセージのやりとりばかりだ。

どれどれ、と切り始めた茄子を置いてスマホを見てみると、今回もまた下品な話題であった。
どうして自分のまわりには下品な話題が集まってくるんだろう、と嘆くその子に、それでそれで?と続きを促すもうひとりと私。早く会って肉食べながら下品な話をしたいね、と三人の意見が一致。

そうだ、長いことなにかがつまらないと思っていたら、下品が不足していたのだった。

2020年9月2日水曜日

記憶の珍味

ポスターを見て気になっていた「記憶の珍味」展を観に、初めての資生堂ギャラリーへ。
実は資生堂ビルのどこにギャラリーがあるかも知らず、時間が来てこちらへどうぞと言われた先のエレベーターに乗り込もうとしたらさらにその奥にひっそりとした階段があって胸がときめいた。
歩を進めるごとに木々の香りが濃くなる。踊り場には大きな白い壺があり覗いても中は見えなかった。
階下では流暢な美しい日本語の金髪の女性スタッフが笑顔で迎えてくれたが、事前にDLしなければいけないアプリをDLしていなかったためにモタモタと操作。私の次に来た殿方も同じくあたふたしていたので安心した。

アーティスト自らの音声ガイドをたよりに、不思議な空間をおそるおそる歩く。
大きなテーブルを囲むように天井からぶらさがったさまざまな木の枝や葉の香りを嗅いでいき、好きな香りでなく気になってまた嗅ぎたくなる香りを選ぶのが難しかった。副鼻腔炎の具合が少しましでよかったが正直違いのわからないものもあった。

それでも選んだ香りは正解だった。
マスクと指先に残った香りは、何度嗅いでもまた嗅ぎたくなる香りだった。
翌朝もまだ香りの記憶が残っているような気がして資生堂ビルを通りかかると、あの香りが漂っていた。気のせいではなくビルのまわりがすべての香りに包まれていた。

2020年8月28日金曜日

ガルガーネガとガントルガ

よく冷えたおいしい白ワインを飲みたくて、酒屋さんの奥でやっている角打ちのようなそうでないようなお店にイン。
適当に選んだ白ワインが大当たりで自然に顔がにやけてくる。
どこのなんていうワインなのか見てみると、品種のひとつにガルガーネガと書いてある。ワインは好きだが詳しくないので初めて聞く名前だ。照ノ富士の本名にも似ている気がする。忘れないようにメモしておいた。
おつまみもいちいち最高であっという間にワインをおかわり。隣のサラリーマンも箸を口に運ぶたびにウンウンとうなづいている。もう1杯飲みたかったが立ち飲みなので長居は無用。さっさと店を後にした。

「ニューねこ正」の美人女将に貸してもらった「蒲田行進曲」で若き日の風間杜夫のあまりのカッコよさと松坂慶子のあまりの美しさに見とれた夜。
あらすじを覚えていなかったので新鮮な気持ちで臨むも、ラストでひっくりかえった。ということは初見だったのか。それにしても銀ちゃんのスーツや王将キャデラックはかなり好みだった。
一瞬だけ出た役者さんが、一瞬なのにえらいことカッコよかったので後で調べたら、それは友情出演の千葉真一と真田広之であった。

まずは「鬼龍院花子の生涯」の仲代達矢のカッコよさをおがんでから「蒲田行進曲」を見るんだよ、と美人女将に言われて素直に従ったが、画面越しでも目が合ったら魂を抜かれそうな圧倒的な目力のせいか、夏目雅子が出てくる前に酔って寝てしまった。後日改めて素面で観る日がこわい。

2020年8月24日月曜日

今年もオーバーナイト60㎞

なぜか毎年出ている、みちくさウルトラマラソンのオーバーナイト60㎞。ここ最近の急激な増量に危機感を感じていたところに友だちからのお誘いがあったので参加することに。

前夜は近所の整体へ登場。以前から気になっていて比較的お安いので気軽に行ってみたらこれがもう大当たり。開始直後からマラソン後もお願いしようと決意。
うつぶせで施術をうけたためについた妙な寝癖とむくんだ顔のまま「ニューねこ正」で英気を養う。この日は生牡蠣が最高だった。昆布森というところで獲れたらしいが名前からしておいしいことを約束されたものだ。大会前によくいただく軟骨焼きを美人女将がそっとサービスしてくれた。

新型コロナのせいでマラソン大会が次々に中止になる中での開催ということで主催者側も相当気合いが入っていた。例年は深夜にも関わらず沿道の方々が声をかけてくれたものだけれど今年はピリピリしているのかな、と気を引き締めてスタート。ところがピリピリどころか例年より多く感じる声援と私設エイド。とてもありがたくうれしかった。途中小さな声でランナーに向かってなにやら歌っている男性数人。今なにか歌っていたねと友だちに言うと「サライ」だったよ、とのことで吹きだした。
今回はウルトラ経験豊富な鉄人と月間300㎞走っている伸びざかりのふたりに挟まれて走った。今年は減量目的だし練習していないし完走は難しいだろうと思っていたが、まじめで親切なふたりのおかげで例年より早く翌朝5時頃にはゴール。休憩も多すぎず少なすぎず、ペースも早すぎず遅すぎず、気遣いもありがたかった。しかし箱根湯本への坂道にさしかかった残り3㎞あたりで、ゴール前だし少し走りましょうかと言うやいなや走りだした坂道好きなふたりの背中をうらめしく見て付いていったことだけは繰り返し伝えておいた。

途中つまづいて転んでもなんとか完走できたのは、打ち上げにお鮨が待っていたから。
今回一緒に走ったメンバーは練習会後の食事会にかなり重点を置いていて毎回ご相伴にあずかっているのだが、その中の主要メンバーおすすめのお鮨の店が真鶴にあるという。
真鶴は今は亡きフンド氏の友だち家族に誘われて一度だけ訪れたことがあり、とにかくいい思い出しかない。地名も好きだし小説「真鶴」も好きだ。これはぜひ行きたいと、そのために必死で走ったのだ。

痛むあちこちを温泉で休ませたあと、いざ真鶴へ。
タクシーの運転手さんに店名を告げるだけで通じるそのお店は、毎日労働帰りに通るお店だった。飲食店は数あれど、いつ見ても店内はいっぱいだったのにいつのまにか消えていたので不思議に思っていたら真鶴で開業しますます評判の店になっていたのだ。
すてきなつくりの店内にため息の出るお料理の連続。背筋は伸びるが緊張感を強いることはない。聞いたことのなかったスミヤキという地魚や藁焼きの魚、特にキスの昆布〆のお鮨にはどんな言葉を送ってよいかわからないほどだった。
時間の経つにつれてため息をついては眠気が襲ってきている鉄人を見て笑っていたが、帰りの電車では私も睡魔に襲われ何度も失神した。

2020年8月19日水曜日

いつかあなたに

ここしばらくはRHYMESTERに夢中で、以前あんなに好きだった星野源は疎遠になっていた。
夏休みの前に「ニューねこ正」の美人女将が、BSでやっていた星野源のワールドツアー観た?録画したから今度あげるよと言ってくれたときも、正直断れなくて申し訳なく思っていた。
休み明けからの二日酔いやら激太りやらで酒場を避けていたが、この夜ふらっと寄った「ニューねこ正」に入るなり美人女将が挨拶もそこそこに渡してくれたDVD-Rを帰宅後さっそく再生する。ああ、ニューヨークでもこの曲から始めたんだ、へぇこの選曲だったんだ、とうれしくなった。
桜も桜の季節の歌も大嫌いで、いろいろがよみがえってきて泣きそうになったのでスマホを片手に歌って踊ることにした。
この日は歩数が少なかったからということもあり、涙しながらも歩数をチェックする自分は決してキライじゃないぜ。

すみれのゼリーの思いで

小学生のころに見た、コミックに出てきたすみれのゼリー。
薄いむらさき色のゼリーの中に漂うすみれはため息が出るほどはかなげであったが、これが想像の料理だとわかったのはつくったあとだった。熱いゼラチンを注いだとたん萎れたすみれの姿は今でも忘れられない。

やる気に満ち満ちた小学1年生の姪が考えた自由研究は、絵本に出てくる料理をつくること。
近年よく見かける大人用の絵本の料理ではなく、自分がつくってみたいと思った料理だというから恐れ入った。それは楽しみだね、と他人事のように言っていたらそれを手伝うことになった。
なにも予定のない夏休み、あの頃のすみれのゼリーの供養にもなるかもしれない。

小学1年生の姪が選んだのは「まいごのまめのつる」のとろりとおいしい豆のスープ
それと「こまったさんのグラタン」のグラタン
おはなしりょうりきょうしつ(6) こまったさんのグラタン
そして、なにかの冊子に載っていた、星空のゼリーの3つ。
(この、なにかの冊子に載っていた、というところがなんともいい)

この姪はとにかくやる気に満ち満ちているので、飽きることなくまずはスープとグラタンをつくり上げた。その味は掛け値なしにすばらしく、特に私も子どもの頃から美味しそうだと思っていた「まいごののまめのつる」の豆のスープはとんでもなくおいしかった。待ちくたびれて空腹でソファに倒れていた小学4年生の姪もおいしいおいしいと平らげていた。

翌日はゼリーをつくるのみだったので余裕をかましていたら、これが案外思い通りにゆかず、材料が足りなくなったりゼラチンが固まらなかったり。それでもなんとか完成したそれは本当にきれいなゼリーだった。絵の具の要領でかき氷のシロップを調合するのが楽しかった。

後日親子でまとめた研究結果を見せてもらって、これは、これは、かなりすごいのではないかと伯母バカではなく真剣に思った。
これで自分の料理熱も復活するかと思ったがそうはイカの・・・(自粛)

2020年8月18日火曜日

運命の出逢い

窓の外から雨音。そっとカーテンを開けると夜明けなのに外は真っ暗であった。
どこもかしこも晴れて暑いだろうこの時期、着いたその場所は震えるほど寒かった。
街も電車も動いていない早朝4時。昨年の夏初めて訪れた美術館へ再訪する旅の第一歩で時間を誤ったことに気付いた。でもまあ、どうということはない。
始発電車に揺られて次なる駅へ。幼なじみに貸してもらった本がおもしろくてどんどん進むが気づいたら眠っていた。予定がひとつしかない旅だからこそできるゆっくりした時間がうれしい。しかしこのご時世、長居は無用の日帰り旅だ。
乗り換えの駅の去年と同じ蕎麦屋で朝ソバをキメて、去年と同じくホームを間違えてあわてる。車両が新しくなっていたが、何人掛けの座席であっても向かいの椅子に足を投げ出すスタイルは変わらず。去年いのししを見かけた田んぼのあたりでウトウト。あっという間に最寄りの駅へ到着。
変わらない駅舎を見ながら、しばし駅前で一服。ついにまた来たのだと、からだ中の血液まで喜んでいるのがわかった。まずは美術館へ、日傘がいらないほど涼しい中を歩く。開館直後の誰もいない美術館でこころゆくまで作品を観て、去年は寄らなかったお寺を見たり葛の花の匂いの漂う高台の公園でまちを見下ろしたり魚をながめたりお蕎麦を食べたり。なにもなければ温泉にも寄りたいところだったが、それはまたいつか。
電車に揺られてまたウトウトしているうちに乗り換えの駅に到着。以前お世話になったおみやげやさんはお元気かしらと雨の中覗いてみると、果たしてそこには変わらぬおみやげやさんがいた。
そこで出逢った彼とは長い付き合いになりそうだ。