2019年4月10日水曜日

春雷

その日を心穏やかに迎えることができてよかった。
何年たっても悲しいこの日だけれど、朝からいい予感しかなかった。


時間を決めずにふらりと行った場所にて。
もの想いに耽っていたら、後ろから声をかけられた。振り向くと、以前お世話になったひとであった。

今や傘職人のそのひとは、たいへん義理堅い。
この場所でばったり会えたことは、ありがたいことだった。
あたたかい甘茶をいただきながら、これからどうするの、と訊かれるもそこはノープラン。

ひとまず電車に乗ってかばんを開くと、旅の本と駅弁の本が入っていた。
ノープランとかいってやる気まんまんじゃないの。
離陸直前の「はとエアライン」に乗りかえて、結局いつもの場所へ。
砂浜にたくさんのさくら貝が、と思ったら、さくらの花弁であった。
途中、犬のすーちゃん(仮名)と出会って、しばし遊ぶ。
すーちゃん(仮名)を連れていたおじさんは、毎朝5時にふたりでこの浜へ散歩に来るとのこと。この日は朝、雨降りだったので、偶然ここで出会うことができたというわけ。
肌寒い日であったが、おじさんは海パン一丁になってシュノーケリングを始めた。
すーちゃん(仮名)とおじさんと別れ、魚も食べず、酒も飲まず、春のケーキも食べずに「はとエアライン」に乗り込む。
グッバイビールをキメてうとうとしているうちに雨が降りだした。


毎年この日の晩は「ニューねこ正」と決めている。
海へ行ったのに魚を食べなかったのは、ここでゆっくりしたかったから。
美人女将と話していると、雷が鳴った。
あと半分だけ、と言ったのにしっかり1本熱燗をつけてもらって、大切な一日は終わった。

0 件のコメント: