2020年2月29日土曜日

また旅に出た

楽しみにしていたというより心の支えにしていたイベントが新型コロナウイルスのせいで中止になってしまった。
やけ酒の前に郵便物を受け取りに遠くの郵便局まで赴いた帰り道、何年も前から気になっていた小さな赤提灯の前でふと立ち止まった。なんとも気になる風情で「そば うどん」と書いてある。そばもうどんも好きだけれど今はとにかく酒だ酒だ、酒持ってこい!と通りすぎようとしたら横目に「酒」の文字が見えた気がした。もう一度戻ってよくよく見るとやはり「酒」と書いてある。でも店の中は見えないし今宵の酒場は決めている。さっさと行こうと歩を進めるももういっぺん戻って小さな窓から中を覗いたが誰もいないこぢんまりしたカウンターしか見えなかった。ためしに一杯だけ、と意を決し引き戸に手をかけてこんばんは、ひとりなんですけど、と声をかけると上がって、と優しそうな女性の声。カウンター2席しかないのにどこに小上がりがあるのかと思ったら奥に小さな三和土。失礼します、と上がるとよその家の座敷のような場所の奥にどう見ても居間のような大きなこたつの部屋。いいのかな、と奥へ行くと輝くお肌のかわいらしいママがこたつの奥に席を作ってくれた。タンスもあるし家族写真もある、まさによその家の居間。向かいに白髪のおじさんもにこにこ座っていた。たっぷりのお茶とおしぼりが置かれ、熱燗をたのむとたくさんのおつまみというよりおかずが乗ったお皿が運ばれてきた。どなたかお知り合いの方と間違われてないかな、と不安になり前から気になっていて今日初めて入ったんですと言うと、うれしいわぁ、とママが笑った。白髪のおじさんもにこにこしながらそれはよかった、と笑った。途中から宴に加わったママの弟さんとママは来週、故郷の宮崎へ友だちと旅に出るという。たまに混じる宮崎弁が旅情をかきたてた。
すっかり盛り上がり規定量の倍飲んでカレーもごちそうになり、とてもきれいなお手洗いを見せてもらい、今度はカラオケでママの大月みや子を聞きなよと言われて帰途についた。聞くとカラオケのお店はフンド氏邸のほどちかく。これはなにかのプレゼントなのかな、とニヤニヤが止まらなかった帰り道。
誰かに話したくてたまらない気持ちをこらえておみやげにもらったお菓子を何度も確かめるも、やっぱりあれは夢だったのかな。

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