まずは二度寝による寝坊。
あんなに早く寝たのになぜ寝坊したのか。お年頃なのだろうか。
あわてて家を出てから信号を待つ間、イヤな予感が背中を走った。
・・・スマホを忘れたのではないか。
時間は迫っている。やはりスマホはなかった。
しかし待ち合わせをしている友だちは幼なじみなので、最悪、実家に電話して幼なじみの実家の電話番号を聞き出し彼女の携帯番号を教えてもらえばなんとかなるだろう。
時間は迫っているが、なんとか間に合いそうだ。
しかしそこでまたイヤな感覚が背中を走った。
ーーーーーー乗車券は、スマホの中ーーーーーー
びっしょりだった冷汗が一度に引き、荷物が急に重く感じられた。
いっそ松本市でのライブに行っちゃおうかな、と口走ったら、付き合うよと彼女が言ってくれたのだ。しかも、別荘のような彼女のすてきな自宅にまた泊めてくれるという。
さらに、私の愛する鰻屋さんでのランチからスタート、ライブ後は彼女の長年のお付き合いの、とにかくおいしいお店でスペシャルディナーの予定まで組んでくれていた。
目当てはRHYMESTERだけれど、スタートは愛する鰻屋さん。ここでしくじったら鰻が去ってしまうではないか。
どうにか約束の時間より少し早く到着する電車に乗ることができて、デッキから外の景色を眺める。
RHYMESTERのライブなのに普段着で来てしまったが、鰻に逃げられるよりはましだろう。特急電車でずっと立ちっぱなしだけれど、ベストコンディションで鰻に逢うためだ。
もはやRHYMESTERが目的なのか鰻が目的なのかわからなくなってきた。
団体旅行のみなさんが絶えずお手洗いに行列をつくっておりデッキはにぎやかだったが、前日聞いた「アフター6ジャンクション」を再度Radikoで聞いて気持ちを高める。(先日iPodを洗濯してしまったのでRHYMESTERを聴く術がなかった)
立ちっぱなしはさほど辛くなかったが10月の松本の風は冷たく、駅ビルで厚手のカーディガンを購入。まだ午前中なのにもういくら散財したのか、と肩を落とす。
しかし、迎えにきてくれた幼なじみの顔を見たら全て忘れた。彼女の自宅に入るともっと忘れた。木のよい香りがするきれいな家。そしてしばらく見ないうちに大きくなった庭木と裏を流れる川に生えている梅花藻というかわいい花。
それから愛しの鰻屋さんで食べたひつまぶしのおいしさといったら、食べるほどに減っていく鰻がさみしくてしばしば手を止めたほどだ。
ライブの時間が迫り、汗くさい普段着のまま致し方なく出発。
私の初デートの地・松本にRHYMESTERがいるなんて、と信じられない気持ちで幼なじみとライブハウスの階段を下りる。
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