「くりから」や「めそ」の名を覚えたのは、むかしむかしフンド氏に連れていってもらった白木のカウンターのあのお店。当時はうなぎにまったく興味がなかったが佇まいは好きだった。
変わらない引き戸に手を掛けると、カウンターはいっぱいなのになぜか静かな雰囲気。メニューの短冊を見ると、うなぎの串焼きがすべて完売していた。
この暑いのに向かいの男性が柳川を食べている。柳川はどじょうだ。うなぎがないならどじょう、長ければなんでもよいという考え、嫌いじゃないぜ。
うなぎがなくて落胆したが、気を取り直して飲ることにした。
隣りの日焼けしたおじさんのところに運ばれてきた串カツもおいしそうだが、こちらのげそバターもなかなかどうして。
向かいの男性が大汗をかきかき柳川を食べているのを見るにつけ、うなぎ欲が首をもたげる。あの人が柳川で手を打ったなら私は「おいてけ堀」の穴子でいくか。どじょうがないなら穴子、長ければなんでもよいのだ。
お勘定を済ませた隣の日焼けしたおじさんがちょっといいですか、と声をひそめて近寄ってきた。さっきそちらに運ばれてきたの、あれはなんですか?と聞かれたのでああ、あれはげそバターです、と答えるとバターのいい香りがふわっと漂ってきたからさ、おいしかった?ああそう、今度食べてみるよと笑って出て行った。でもそちらの串カツもおいしそうで実はずっと見ていたんですよ、とは言わなくてよかった。
河岸をかえて「おいてけ堀」へ。
別の日にまた来ればいいじゃないの、そもそも本当はうなぎ目当てだったでしょう、としめさばが慰めてくれた。
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