2020年9月15日火曜日

下がり竜

野暮用で地図を片手に危険地帯に踏み込んだ夜。
ビルも公園も作りが独特で猥雑なニオイのこのあたりに一度だけ飲みに来たことを思い出した。
野暮用を終えて独特で猥雑なビルのまわりを歩いていたら、海辺のカフェのような飲食店を発見。こんなところにこんなお店があるんだ、としげしげと眺めたら既視感。
外装も内装もきれいになっているが、つくりが明らかにあのとき来た焼鳥屋さん。コの字のカウンターのみのとても狭いお店で、フンド氏とふたり、あの角の席に座ったのだ。
私たちを除く他のみなさんは常連さん。しかもそのスジの人、もしくは元そのスジの人たちばかりで気まずいことこの上なかった。
軽く飲んで帰ろうかと目で合図していると、私たちを囲むように両隣のおじさんたちが刺青自慢を始めた。私の隣の痩身のおじさんは興にのってシャツを脱いだ。俺の昇り竜を見せてやるよ、との言葉につい横を見たら、しわしわの竜のようなものが背中一面でしょんぼりしていた。笑い出しそうになるのをフンド氏に制されて必死でこらえた。
昇り竜じゃなくて下がり竜じゃねぇかよ、とダミ声で笑うフンド氏隣のおじさんに、痩せちまったからなぁ、と悲しげにシャツのボタンを留める下がり竜のおじさん。目と声に特徴のあるフンド氏がお勘定を、と言った途端に静まり返る店内。
それからどうなったかは覚えていないが、今ではこんなおしゃれなカフェになっていますよ。

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