2021年8月5日木曜日

夏の親子

8月の始めのある日、義兄から誕生日プレゼントが送られてきた。
本体の手提げは誰がつくったのかわかったが付属のえびフライと海苔巻きが謎であった。
懐かしい字で書かれた手紙も入っていた。フンド氏と字が似ているが筆圧などやはり少し違う。
お礼の電話をしたら長電話になってしまった。フンド氏と声が似ているが強さなどやはり違う。義兄とこんなに話したのは初めてかもしれない。愉しい夜だった。

いつの間にかもう8月。
毎朝会うあの親子がいつの間にか夏仕様。
この親子も長いことマスク生活だったが、いつの間にかパリピになっていた。

2021年8月4日水曜日

不思議なまち つくば

今までに二度ほどお会いしただけの間柄で、その作品や送ってくださるDMにかなりの熱量を感じていた、かえるとこけしのイラストの方。
いただいた手描きの新聞を改めて読んだら個展が翌日までとのこと。これは行くしかないと朝早く起きて向かった先は初めてのつくばであった。

茨城県には縁もゆかりもなく、とはいえいつも行くコーヒー屋さんからつくばや茨城空港周辺のランニングコースを教えてもらったり、そこでのイベントで親しくなったアーティストさんの個展を観に牛久まで行ったこともあり、じわじわと茨城への道すじができたように感じていた。
早めに到着して、手描きの新聞におすすめと書いてあった駅前のコーヒー屋さんでおしゃれに朝食をキメた。

運ばれてきた枝豆とゴルゴンゾーラのキッシュを食い入るように見ると、キッシュの味が濃いのでサラダにはドレッシングをかけていませんがそのままで召し上がってくださいと店員さん。ほうほう、と背筋を伸ばしてナイフとフォークを使う。
他の席では親子連れや仲睦まじいカップル(もしくは若夫婦)がのんびりコーヒーを啜っていた。いただいたキッシュもコーヒーも、そしてサラダまでもおいしかった。

焦げつきそうな炎天下を歩き出すといきなりロケットが現れた。
しばらく進むと駐輪場の脇にロボット実験用道路と書いてある看板がありあたりを見回したがロボットも休日なのだろう、誰もいなかった。暑すぎて白く見える道を進んでコンクリートのなにかがそびえ立つ不思議な公園でひと休み。汗がぽろぽろ落ちてくる。
あまりの暑さと不思議な景色の連続に白昼夢を見ているような気がして、ふと気づけばギャラリーに到着していた。
クルマは何台も停まっているがひと気のない建物の階段を上がると、はたしてそこにはたくさんの人たちとDMをくれたかえるの人がいた。
あ、マッチの人と言われてうれしくなった。
壁面には今までの新聞がずらり圧巻。たまにある造形物もかえるの人の味がある。新聞を端からじっくり見ると、かえるの人の地元、土浦愛がいっぱいで次回は土浦に行こうと決心した。
かえるの人に、あなたのおすすめのお店で朝食をとってきたがとてもよいお店だった、ついてはもうひとつのおすすめのコーヒー屋さんにも行きたいがどこを行けばよいかと訊ねると、少し待ってくださいと外へ出ていった。
どなたか道のわかる賢い方、東京からわざわざ来てくれたこの方をあのお店に連れてってもらえませんかね、とかえるの人が言うとふたりの女性が立ち上がった。いいんですかと言うと、どうぞどうぞと仰るのでご好意に甘えてもうひとつのコーヒー屋さんへ。車内では初対面のこのおふたりの案内してくれるつくばのまちがとてもおもしろくてGoogleマップも知らない道やおすすめのお店を教えてもらった。
この人、東京からわざわざかえるの展示を観に来たのよ、とあちこちで紹介してもらいたいへん恐縮しながらもうひとつのコーヒー屋さんへ。ほどよきところでギャラリーへ戻るおふたりに、もし今日お店に行けなくてもきっとまた来るよね、と言われてハイもちろんと胸を張ったが、そういえば名前知らなかったと言われてあわてて自己紹介した。

普段は食べないのにおいしくて感激したキーマカレーのサンドイッチとコーヒー、そして親切なお店の方に満足して外へ出るとすべてを忘れそうなほどの炎天下。とても街歩きなどできず、さっき教えてもらったGoogle先生も知らない小径を歩いてバス停にたどり着いた。

今度来るときは絶対に迎えに行くからね、と言ってくれたふたりといい、かえるとこけしの人といい、つくばっていいところだなぁ。

2021年8月2日月曜日

スマホを忘れて

少し早めに髪を整えておこうと「MOD BARBER こけし」姉妹店へ。
その前にこの日までの展示を観て、それから一度ゆっくり見たかったあのお店に寄って、それには何時にギャラリーを出たらいいかなとバッグを漁るとスマホがない。ああ、またスマホを忘れてしまった。
しかしこの日は誰とも約束がないからいいかと開き直ったが、ふとした瞬間に調べものをしようとするたびスマホを忘れたことに気付く。
帰ってから調べればいいさ、と思うもこんな時に限って調べたいことが次々に浮かぶ。
「MOD BARBER こけし」の姉妹店で秘密にしていた話をして髪をきれいにしてもらって楽しく過ごした後もつい手がスマホを探す。

翌日は何時に家を出たらよいか考える。スマホがないので考える。昔はこんな感じだったよなぁと思い出して少しだけ頭を使った。

2021年7月29日木曜日

会津柳津

その場所には夏に訪れるようになったがいつも日帰り。いつか夜の景色も見てみたかったし、しばらくこんな旅はできなくなるので思いきって今回は1泊することにした。

草いきれでむせそうな田園を只見線の車窓から眺めながらうとうとしているうちに到着。懐かしい駅舎をしばらく眺めてから道を下っていくと、あわまんじゅうをふかす湯気が見えてきた。朝早いために人は歩いておらず去年も会った犬が気だるそうにこちらを見たのでオッスとあいさつしてマスクを外した。久しぶりの感覚だった。
観光地といえばそうだけれどどことなくひそやかで厳かな雰囲気のあるまち。しばらく坂を下ると只見川が見えてきて思わず立ち止まる。そういえば遊覧船があったなと思い出して今回はそれに乗ることにした。
只見川が深い緑色なのは川が深いのとまわりの木々が映るからという説明に感心しつつ船に乗るときにもらったエサをまくと、うぐいが大勢やってきて大騒ぎ。ここのうぐいは神聖な魚なので一応神妙な面持ちで見つめた。
冷たい風に吹かれてうとうとしているうちに船は終点へ。それからいつも何度も寄る大好きな道の駅でずっと気になっている山菜の缶詰めセットをじっと見つめたのちにお蕎麦。博士山という山の麓の蕎麦なので博士そば。ズッキーニの天ぷらもお蕎麦もとても美味しくてゆっくり食べた。
旅の目的の斉藤清美術館はそのとなり。今回は作品名も時期も表示がないイレギュラーなもの。先日友だちから花が咲いたとメールをもらったまさに月下美人の木版画がありじっと見つめた。ねこが窓辺でなにかをじっと見ていて開花に気付いたらしい。香りが漂ってくるようだったがまだ私はその香りを知らないのであった。
ほとんどの観光客がそれを目的に来る「福満虚空藏菩薩 円藏寺」は何度行っても何度文字を追っても名前を覚えられない。急な石段をふうふう上ると汗が噴き出した。お堂をゆっくり回って山ゆりの匂いにむせ返りながらひと気のない奥の院まで行ってみたがお参りをするのを忘れた。汗がべたつくのでまちなかの湧き水を柄杓ですくって手を冷やしてはまた歩く。
まだ少し早いけれど高台の宿へ向かった。宿坊だった宿がいくつかある中で選んだそこは、古いけれどきれいに掃除がしてあり障子窓を開けると只見川。しばらく仁王立ちで外を眺めてから酒を求めてスーパーマーケットへ。そこで選んだ地元のおかず 車麩の煮つけは疲れが飛ぶほど美味しかった。夕食にいかがですかと宿で用意してもらったソースかつ丼も、私の田舎のものともまた違って美味しかった。地酒を啜りながら障子窓を開けてとろりと黒い只見川を見たり本を読んだり温泉に入ったり。

ぐっすりねむった翌日はもうひとつの目的である諸橋近代美術館に向かうため早朝にさようなら。名残惜しいったらなかった。
今度は寒い季節にも来てみようと思ったが、ここは日本屈指の豪雪地帯なのであった。

2021年7月27日火曜日

いつまでもあると思うな

旅の初日。
マンネリが好きなもので、夜行バスに揺られた朝はいつもの駅そばをキメようといそいそ向かうと果たしてそのお店は閉店していた。隣の大きめの食堂もなくなっており今月22日に新しいお店がオープンすると貼り紙が。22日、もうとっくに過ぎているじゃないの。
最後の日に、そういえばこの駅の外にラーメン屋さんがあったなと向かうとそこも閉店していた。しかし空腹のあまり感傷に浸る間もなく次なるお店を探す。

よせばいいのにどうしても欲しかった山菜の缶詰め(大)セットを手に入れたせいでリュックはとんでもない重さだった。着替えも化粧品も「センセイの鞄」のツキコさん並みに最小限にしたのに。そんな重いリュックを担いでこの日は朝8時前から歩き回っていたのだが、まともな食事をしていなかった。朝食はふかしたてのあわまんじゅうだった。開店前でまだ蒸らしてないからあんこが熱いよ、と言われたそれを大好きな只見線の中で食べた。今までで一番美味しかった。それから電車とバスを乗り継いで向かった美術館ではチケットを購入するやいなや踵を返して併設のカフェで何かをむさぼり食った。美術館の外の素敵な庭を眺めることができる特等席で何かをむさぼり食う人はほかにいなかっただろうし何を食べたかは覚えていない。作品はとてもよかったし余った時間に歩いた森の中も楽しかったがお腹は空いていた。バスで駅まで戻ったものの次の電車が来るまで炎天下をふらふら歩いているうちに耐えきれずセブンティーンアイスの何かを食べたことを今思い出した。
そこからまた電車に揺られて件の駅の外のラーメン屋さんにも振られたわけだが、駅前に古い食堂を発見して突撃。そこで食べたラーメンは醤油味と書いてあったがどう考えても塩味でそれがとても美味しかった。なぜか一緒に頼んだ冷酒と納豆もよかった。
しかし前日に見つけて慎重に持ち帰ったなんともいい雰囲気の納豆は、今までに食べたことのない強烈な匂いと味で二口で箸が止まったのであった。

2021年7月26日月曜日

ふたりでおそばを

早めに家を出ることができた連休前日、いつもの朝ソバへ。

入れ代わりにお客さんが出ていって店のおかあさんとふたりきり。明日から休みだろ、と言われたのでハイ、こちらもお休みですかと訊ねると、だってこのへんだぁれもいないもん、天ぷら揚げても棄てなきゃならないからさ、と言うので思わず箸を置いて、もったいない!と叫ぶと、ふふふ、女性はそう思うよねとおかあさんは微笑んだ。

深夜には旅に出るのだと思うと気持ちは昂る。
それがたとえ連休の終わった翌日であっても、あの気持ちはいいものだったと思い出せる。

2021年7月18日日曜日

いったいなんだったんだ

わけもなく早起きしてしまった休日。
暑くなるのはわかっていたためランのお誘いは鄭重にお断りしたが、やることやって手持ちぶさたになったので重い腰を上げて映画館へ行くことにした。子どもの頃以来の二本立て。あのとき観たのは「天国に一番近い島」と「Wの悲劇」だったと思う。
入道雲がむくむくしている暑そうな空を、空いている涼しい山手線から眺めながら映画が終わったらあのお店に行ってみようなどと考えてわくわくしてきた。
映画館に到着してチケットを求める列についてかばんを漁ると、財布がない。先日失くして戻ってきた財布がない。また忘れたのか自分。ひどい暑さの中はるばるやって来たのにただ帰るしかないのか、とSuicaをじっと見つめると思い出した、ジョグのときにSuicaケースに千円札を入れたことを。あとは小銭をかき集めて無事席に着くことができた。
観たかったのは2本目だったが1本めが思いのほかよくて満足したのはいいが喉が乾いた。しかも美味しそうな食事シーンが続いて空腹だ。しかし本命の2本めの映画を観終わるまでは辛抱だ。
2本めの映画はほぼ満席で期待は高まった。が、雄大だがさほど美しくもない景色の連続に気付けば2度意識を失い博打のシーンで目が覚めた。博打自体はどうということのないイカサマだったが、合間に立ったまま女性たちが掻きこむどんぶりの中身が気になった。今宵こそはウン年越しのうなぎでキメるか、それともすごくいい肉を買うか、頭と口の中はよだれでいっぱいでエンドロールが長く感じた。
帰り道は美味しそうなものがいっぱいだったが今の私には小銭少々とSuicaの残額¥500しかない。radikoを立ち上げて千秋楽の最後の一番に耳を傾けたがどこか上の空。結局私には食欲しかないのだなと帰宅するや否や台所に転がっていた財布をつかんでスーパーマーケットに走ったのであった。