2021年3月4日木曜日

ピカソのコート・ダジュールが

まずまず労働をがんばった夜、コロナ禍でなければ普通に飲みに行くことができる時間なのにタイムリミットが迫っていたので帰宅途中のワインのお店へ。
幸運なことにカウンターの隅が空いていたので滑り込んで白ワイン。ここで以前飲んだワインではなくまずは一番安いやつ。それでもじゅうぶんに美味しくて気持ちがほぐれる。たのんだピクルスが美味しかったのでついにお目当てのワインを注文。ワインの用語を知らないのでなんと言ってほめたらよいのかわからないが、何度も香りを嗅いでは啜っていたい、酔うよりは目が覚めるような味。
その晩お供にした本がフランス料理のレストランの本だったからか次の日は、前から行きたいと思っていたいくつかの展示の中から「ピカソ コート・ダジュールの生活」を選んで突撃。
特にピカソが好きなわけでも詳しいわけでもなく、何かで見かけた作品がとてもよかったのだ。ピカソがセラミックの作品をつくっていたことさえ知らなかったが、何かで見かけたその壺はモノとして欲しくなるほどすてきだった。
会場は初めて行く美術館で、こじんまりとした静かな空間。そこで観た乾ききっていないまだ柔らかい皿にピカソがどんどん線を彫っていく映像と、ろくろから外したばかりの瓶状のものをひねったり軽く潰したりして別のものにしていく映像がとてもよかった。指に煙草をはさんだまま、さっさと彫ったり塗ったりしている様子がとても楽しそうでしかもカッコよかった。特にヤギの皿とお菓子の絵がよかった。
なん十枚もの皿が壁に並ぶ圧巻の展示を観ていたら、ほぼ同時に観ていたご婦人ふたりが気まずい雰囲気に。せっかく誘ってくれたのにイヤな気持ちにさせちゃってごめんなさいね、との言葉に耳が傾く。ヒモよね、なとど聞こえてきて男の話なのかとますます耳は傾いて、コート・ダジュールがいっぺんに団地の公園になってしまった。

2021年3月3日水曜日

チーズに塩 祭りおにぎりに菜の花

フンド氏のお父さんの行きつけだった「おいてけ堀」は今や私の行きつけの酒場。
誰とも話したくないけれど家で飲むのは寂しいときの大切なお店。
初めて同行したご近所の飲み友だちがチーズを注文。数切れのチーズに添えられた塩について、人懐こいその友だちが4代目の坊っちゃんに訊ねた。いつもは無口な色白の坊っちゃんが言うには、初代の曾祖父さんの頃にそうしていたみたいで当時はそれが洒落ていたのか単に酒飲みはしょっぱいものが好きだからなのか、とのこと。初代の曾祖父さんということは、フンド氏のお父さんがこのお店に通っていた頃の大将。お父さんがこのチーズを食べたかどうかは知らないけれど、この話ですっかりチーズに塩が気に入った。

久しぶりに姪っ子たちとお料理した週末。
想像だけで作っていた頃より格段に下手になった祭り寿司ならぬ祭りおにぎり。
形はぶさいくだったが初めてつくった姪っ子たちは喜んでくれたし、ほんの少し入れた菜の花の苦みがよかった。
もっと練習して、いずれはかたつむりの祭りおにぎりをつくりたいものだ。

2021年3月1日月曜日

マンネリ上等

毎朝フンド氏と自分のために淹れるコーヒーの、そのコーヒーメーカーはメイドイン香港のおもちゃのようなもの。ネルドリップなんかも使ったことがあったけれど、結局これが好きでかれこれ5年は使用している。いつの間にかあちこちが取れてしまっているけれど、いつもの朝の唯一のおごそかな習慣には欠かせない。

先々月末からよく走るようになった。
先月は200km以上走ったしまた元の体型に戻れるかしらんとにやにやしながら体重計に乗ったが体重はビタイチ減ってはいなかった。
肥えたせいで、距離は一丁前でもほとんど歩いているので、たまに友だちとLSDをすると、今までのはLSDではなくて散歩だったと気付かされる。先日の神田川上流ランもそうで、故障中のエリートランナーでさえ涼しい顔をして走っていたのに、途中から口もきけないほど苦しくなった。後半、友だちの豪邸に寄って素敵な庭でコーヒータイムをキメて約20kmでゴール。温泉で温まったあとは4人で近くの食堂のメニューのほとんどを食べつくした。
ビールでほどよく酔って満腹。夜は家で本でも読んで過ごそうと思っていたら、しばらくお邪魔していなかった酒場の大将から新入りねこの写真がたくさん送られてきた。さっそく出掛けてみたがあいにくこの日は出逢えず。そして後日またもや大将から新たなねこの写真が。
いつもの場所にいつもねこがいる日々がまた始まる。同じことの繰り返しがいちばん安心。

2021年2月22日月曜日

その程度の思い出

先週のアトロクでの、都築響一さんの「二度と行けないあのお店の話をしよう!」特集を聞いてなつかしいお店をいくつか思い出した。

田舎の商店街の角にあった喫茶店。
昼間でも暗いそのお店は仲の良いおじいさんとおばあさんが営んでおり、生まれて初めて食べたあんみつにラムネがぱらぱら入っていたのを覚えている。のちにそのおじいさんとおばあさんはご夫婦ではなかった(内縁関係)と聞いて、そのお店のことがなぜかますます好きになったのだった。あれからずっと、あんみつは大人の食べもの。
それと母親の友だちが夜連れて行ってくれたやはり薄暗い喫茶店。
なにしろ田舎で夜出歩くことなどなかったので、薄暗い喫茶店を出たら外が真っ暗だったことに驚いたのと、初めて嗅いだアーモンドコーヒーの香りにうっとりしたことを覚えている。
それと小学生のころ通学路に出来たやはり薄暗い喫茶店。
ログハウス調の重い扉を押して入るとコーヒーの香りとケチャップの焦げた匂いがしていっぺんに好きになったが、帰省の折になつかしい思いで行ってみたらどぎつい看板が立てられており気持ちが醒めてしまった。
薄暗い喫茶店が好きなのは子どものころからだったのだなぁ。

「二度と行けない」というのにはいろいろな理由があることにも、この特集で気づいた。お店が移転・閉店してしまっただけではなく、そこで知り合った人と気まずくなったりフラれたりというのもあるらしい。しかしそのようなお店の存在などないという人がいることにも驚いた。

この特集ではパンチラインがたくさんあって、自分のことを言われた気がしてうれしくなった。

本を年間何千冊読むより好きな本を何度も何度も読み返す方が人生が豊かになると思う、とか、知らない場所で飲食店を探すときに食べログなどの星の数や口コミにばかり頼って探すのはつまらない、とか、捨てられないものがなくてなんでも捨てる人にはその程度の思い出しかないんです、断捨離なんて愚の骨頂、など。
どれもこれも、うんうんと頷きすぎてめまいを起こすほどだった。

2021年2月15日月曜日

こんなに走っても体重はビタイチ減らない

エリートランナーたちと遠方から遠方へLSDの休日。
ペースはさほど早くなかったが、なにしろ週に一日しかランを休まない人たちなのでついていくので精一杯。しかし長距離初挑戦の女子が、湖が見えたら帰りますと言っていたのにうっかりほぼ全行程を走ってしまったほど湖は美しかった。
先日のお墓参りランから間がなかったために足取りは重く、登り坂では何度も歩いたがなんとか湖を一周、コンビニ休憩でいつもは絶対に食べないいちごパフェを食べたらやる気がみなぎってきた。モノレールの始発であり終点である駅で女子とはいったんさようなら。
いよいよ後半、玉川上水をつまづきながら走る。
エリートランナー2名のペースが上がっている気がして、ちょ、ちょ、ちょっと早くないですか、とクレームをつけると、ああそうだね、でも大丈夫でしょうとつれないこたえ。
ほうほうのていでゴール。なんとか30㎞を走り切った。
同じ日の同じ時間に別の場所でLSDをしていた仲間たちから優雅にコーヒータイムをキメている写真が送られてきて、写真さえ忘れて必死で走っていたことに気付いた。
案内された地元の銭湯の露天風呂では、気持ちよくて思わず唸り声が出た。
そして待ちに待った打ち上げはビールがおいしくてずっとビール。先週の胃の不調はきれいさっぱり消えた。

中1日で30㎞ずつ走ったので翌日はさぞかし体がきつかろうと思ったがそうでもなく、ジョグに出てもよかったのだが近所をぶらぶら散歩。
ご夫婦ともにランナーのコーヒー屋さんで筋肉痛自慢をしてからフンド氏邸へ寄り、途中で大好きな白ワインを発見したので、もう何度も見ている「タイガー&ドラゴン」をお供に夜を過ごすことにした。
それにしても何度見ても唸る。唸りつつ酔いが回ってきたころ、古田新太と清水ミチコの夫婦漫才で涙が止まらなくなった。
最終話の手前で電源を落とし「仮面舞踏会」を見てからおやすみなさい。翌朝はまた、まぶたが33に腫れていることだろう。

2021年2月12日金曜日

少年隊はへっぽこランナーをも動かす

急行電車に乗っても1時間以上かかるフンド氏の両親のお墓参りに向かい、そこから走って帰ってくるという酔狂をやってのけた休日。

フンド氏が元気だった頃のお墓参りの愉しみは、駅の近くのラーメン屋さんだった。
そこがいつの間にか閉店しており、すっかり足が遠のいた。
キリスト教式のお墓は線香もたてないしいつ行っても枯葉ひとつ落ちておらずとてもきれいなので、持参したお花を活けるだけでお墓参りは終わり。めったに行くことのない遠方のご両親のいる地にせめて少しでも長くいるために、そのラーメン屋さんは必要だったのだ。
時間をかけて選んだお花を活けて少しお墓の前に佇んだのちに、いつもは気にも留めていなかったがその日にかぎって妙に気になる駅のお蕎麦屋さんへ早足で向かう。
果たしてそこは、都心の駅ソバともまったく違うすばらしくおいしいお店であった。(都心にもあるかもしれないけれど)お墓参りの後、これからはここに来ようと決めた。
舞茸天そばをゆっくり味わって、食後によく寄った喫茶店を横目に、強風の中いよいよスタート。とはいえ食後なので即歩く。野菜の無人販売所がところどころにありとても気になったが、がまんがまん。先日ラン友達が写真を送ってくれた茅葺の屋根の家にもすぐに着いたがまだ先が長いので無念の通過。
そこから先は、街が変わるたびに各党のポスターの顔ぶれが変わるのを見ながら特になにも考えず進むのみ。23区内に入ると少し気が楽になった。住居表示を見て、ここには昔好きだった人が住んでいて遊びに来たことがある気がする、とかここにも昔、妹の受験する学校の見学で来たはずなどといろいろ思い出す。
いい加減に休憩しようと東京ドームへ。いつもは飲まない甘い缶コーヒーを飲んで一服し、ジェットコースターで両手を上げて叫ぶ人たちを見上げる。両国まではあと少し。塩を吹いてざらざらした顔から再度汗を流してラストスパートだ。

結局32㎞も走ったり歩いたりして、シャワーを浴びて酒場に行くにはちょうどよい時間に帰宅。音楽もラジオも一切聞かずに進んだ約4時間、頭の中ではずっと少年隊の「ABC」や「湾岸スキーヤー」が流れていたのであった。

2021年2月10日水曜日

体調不良のにわかファン

珍しくすいていた週末の酒場で飲み友だちにばったり会って飲んだ後に、最近お気に入りの食堂で仕上げのもう一杯。翌日もその飲み友だちと待ち合わせて小さな蚤の市とランチへ。
この日蚤の市で最高にかわいいこけし柄の小箱を入手したところまではよかった。
最近体の調子がよくないなぁと思っていたところに軽く昼酒をかましたせいでなんとなく元気になった気がして明るいうちから「おいてけ堀」へ直行。
たまに会うおじさんに熱燗をごちそうになって調子に乗って飲み上げ、はしご酒好きな飲み友だちに誘われるまま前日と同じ食堂でまた仕上げた翌日から本格的に不調が始まった。

朝から胃が重苦しく食欲も酒欲も出ない。最近続いていたジョグに行く気力もなく引きこもり、フンド氏の月命日の夜もついぞ「ニューねこ正」には行けなかった。
唸って過ごしていたところにLSDのお誘い。
少々遠い場所だけれどみんなで走れば楽しいし、なにより今月はオンラインマラソンなるものに申し込んでいるので少しでも走れたらと気軽に参加表明するも、よく見たら参加者はエリートランナーしかいなかった。しまった、早まったか。
エリートランナーしかいない中でへっぽこランナーが迷惑をかけるわけにはいかないので、重い腰を上げてジョグに出発。
アトロクをタイムフリーで聞きながら走り出すと、先日の少年隊特集を聞き逃したことを知った。苦しくてもアトロクさえあればなんとかなるのでコースを長めに変更。
当時からアイドルにはビタイチ興味はなかったが、さすがに大抵の楽曲は聞いたことがあって懐かしい。昨年末の少年隊特集や筒美京平特集から見る目(聴く耳)が変わり、なんてカッコいいんだろうと今さらながら感動。
その翌日はやはり聞き逃したアトロクのゲレンデDJ特集を聞きながら徒歩出勤。
信州に生まれ育ちながらスキーは大の苦手で授業以外でスキー場には行ったことのない私には知るよしもないゲレンデDJの世界。そのお仕事内容も選曲も何もかもがすばらしくて、脳内には一面の銀世界が広がった。
しかしなにより心を(耳を)射貫かれたのは、最後にかかった少年隊の「湾岸スキーヤー」。
前夜の少年隊特集をリスペクトしてとの南部広美さんの選曲に朝からシビれてつかの間、不調を忘れた。今夜もおとなしく帰って少年隊ナイトだ。