2018年7月6日金曜日

逃亡者のある一日

べつに、つらいことがあるわけじゃなかった。
なやみごとがあって、もんもんとしているわけでも、なかった。

朝目覚めたとき、ふと
「逃げようか」
と思っただけ。

ベランダの戸を開けたら「はとエアライン」が待機しており
それに乗っかっただけのはなし。
行った先で、おいしいものを食べることができるかもしれないから
朝食は「おはよう!商店」の、かわらぐみとくわの実にした。


いろいろほうり出して旅に出たことに、
罪悪感はまったくなかった。
それより
どこかに泊まっちゃおうか、などと夢は広がる。
山奥の、さらに奥へ進んだところにある、
「すべすべ温泉ねこぞの」に到着。

お風呂までの坂道で、はちわれが溶けそうになって寝ていた。
思っていたより、ずっと鄙びた雰囲気に気をよくして
おなかも空いていないのに、お風呂のあとの食事もたのんで地下の風呂場へ。

廊下の赤いじゅうたんといい
かしいだ階段といい
脱衣所の棚の低さといい
これは「鄙びた」なんてもんじゃない。

わたしが出たから、いま貸切だよ、
とおばあさんが
髪を乾かしながら笑う。
そうなんだ、うれしいな、
と答えながらも
実は(帰らないで)と心の中でつぶやいていた。

露天風呂は崖の下にあり
木や竹の根がむきだしになっているのをながめて湯に浸かっていると
内湯に続く引き戸が、激しく閉められた。
誰かが入ってきたのだ。

しばらくして内湯に戻り、その人の方を見ると
こちらに背を向けて、ものすごい勢いで長い髪を洗っていた。
たまにこちらを振りかえり、凝視&静止。
かれこれ、15分以上はそれを続けているその人がだんだん怖くなり
風呂をあがった。

しっかり温まったおかげで汗がとまらず
扇風機の風を浴びながら、身支度を整えていると
今度は内湯から脱衣所への引き戸が、激しく開けて閉められた。

もう化粧なんてどうでもいい、と
ほうほうのていで荷物を抱えて食堂へ。
お昼どきを越えた鄙びた食堂には
焼酎をボトルでとって飲んでいるお年寄りグループがひと組。
酔いでまわらぬ舌で、艶話・・・というよりエロ話を無限ループ。
ある年齢を超えると子どもに戻るってのは、こういうことか、
と考えながらウーロン杯を飲むうちに
先ほどのおそろしいできごとも忘れた。
帰り道、あまりに曲がりくねった小道が多いので
ちょっと坂を下りてみたら、あっという間に迷子になった。
しずかな漁港をながめたのはよかったが
先ほどの温泉の裏にあたる場所に、なぞのトンネルを発見して
再度震え上がる。
おもうぞんぶん浜辺を歩き
「古本」の看板が目に入ったので、そのまちの古本屋さんへ。
帰りに読む本を手に入れた。
喫茶店に入ることもなく
漁港のおいしい魚をつまみに一杯やることもなかったが
いい具合にくたびれて、帰途についた。

2018年7月3日火曜日

モテていたのか

マラソン前日くらいは、酒を飲まずにいた。
いつからか、いつなんどきも、晩酌を欠かさないようになった。
この前日も、明るいうちに「おいてけ堀」へイン。
粛々と最後の一杯を飲んでいたが、
気付いたら
禁断の四杯めを片手に、隣のお客さんと話が盛りあがっていた。

これはイカン。
早く帰って明日に備えなければ。



すさまじい暑さだった週末
昨年のリベンジをするべく、北へ向かった。
昨年とちがうのは、現地に知り合いが待っていること。
縁もゆかりもない福島の地に、友だちが待っていた。
(父と同い年の)


暑さと、その名のとおりの地獄坂のために
ひっきりなしに水をかぶり
すいかをかじり
もうろうとしながら、
昨年リタイアした辺りまでたどりつくと、
おじさんふたりが炎天下で写真をバシバシ撮りながら
「がんばれよ~」
と声をかけてくれた。
ほうほうのていでゴールしたあとは
おじさんふたりが、私の知らない村の、
山の中腹の静かな温泉へ連れていってくれた。

つるつるのお湯で生きかえり、おそばをごちそうになり
おじさんふたりのマシンガントークに圧倒されながら
わざわざ便利のよい駅まで見送ってもらった。
おみやげに、地酒までいただいた。



さっそく、このことをマラソン仲間たちに話すと
「モテ期到来じゃない?」
「70代限定の」
と言われた。

私は、文通相手がまたひとり増えたな、と思った。

2018年6月15日金曜日

「ぺろりレストラン」の玉ねぎスープ

毎年恒例の、年に一度の玉ねぎ掘り。

この玉ねぎは、きのこの会社でつくっており
水にさらさずとも、生まで食べられる。
なぜか、韓国とフランスのみへ輸出されるそう。
つまり、この日を逃したら
口にできないのだ。

この特別な玉ねぎを教えてくれたのは
地元を広く牛耳っている、幼なじみ。

幼なじみの友だちが営むレストランのお客さんはこの時期、
この玉ねぎを使った、特別な玉ねぎのスープを心待ちにしている。
あ、「レストラン両国駅」では、ないですよ。
こちらは、オムライスとえびフライだけのお店ですから。
幼なじみのご相伴にあずかり、
お皿までなめたくなるお料理や
5日間だけおいしくなるという、いちごのデザートなどを
ゆっくりのんびり、いただいた。


いっぽう、ひと月ぶりの文太くんは
今までにないほど、大歓迎してくれた。

お礼に、しろつめくさで花輪をつくってあげたけれど
 ガブリ
 ブチッ
ガブリ
(以下続く)
前の晩は
少し早い「父の日」を母とやって
食べすぎて飲みすぎた。

2018年6月4日月曜日

ゆううつな月曜日

久しぶりに朝からジョグして、
のんびり歩きまわった休日。
コーヒー豆をひいてもらっては
65Kmを完走したことを自慢して
届けものをしにおじゃましては
65Kmを完走したことを自慢して
美人女将のお誕生日をお祝いしに、
飲みに行っては
65Kmを完走したことを自慢して
(未亡人会のメンバーがまたひとり増えた)
「ニューねこ正」がお休みの日に出かけた
「相撲茶屋さばねこ」では
見知らぬおじさんにまで・・・(以下略)

酔っぱらって、携帯電話と家の鍵を床に落として、
隣り合わせたおすもうさんに注意されてしまった。
これにて自慢行脚は終了。


2週間前に色づいたあじさいは
 いまだ、その美貌を見せてくれており
ゆっくり咲くのだよ、と声をかけたエンゼルウイングは
毎朝毎晩、みずみずしい香りをふりまき
酔って帰った夜に、
ノーマークだった場所のつぼみを開いて驚かせたくちなしも、
見るたび香りを濃くしている。


ところで
我が家の引っ越しは、いったいいつになるのだろう。
引っ越しなんて、
久しぶりすぎて
ゆううつでしかない。

2018年5月29日火曜日

アフター6ジャンクションと人間交差点

みちくさウルトラマラソン完走の翌日。

どうしても誰かに昨日のことを話したくて、
ばったり会った、お向かいのアスリート奥さんに報告。
思っていたとおり、奥さんもウルトラ経験者であった。

なぜか筋肉痛もなかったので、
すこし離れた古書店へ
本を売りに行く。
「この本は、全部あなたの本ですか?」
と訊かれたので、そうです、と答えると
「ぼく好みの本ばかりです。それにそのTシャツも」
と、店主は私の着ているTシャツを指差した。

それは、いまだ興奮さめやらない、人生初フェスのTシャツ。
「あのフェスに行かれたんですね。すごい雨だったでしょう」

同じ趣味の人がいた!

驚きとうれしさで口がきけなくなっていると
「ラジオも聞いていますよ。あの曲、最高ですよね」
たたみかけるように、うれしい言葉が。

それからは、長い空白の時間を埋めるかのように
マシンガントーク。

ああ、あのTシャツを着ていてよかった。


あんまりうれしくて、その夜はひさびさに呑みに出かけた。
ねこホステスたちに何度も話しかけられて、とてもモテた夜。

2018年5月28日月曜日

みちくさウルトラマラソン

ここのところ、マジックアワーの時間には
お気に入りのラジオを聞きながら
「両国のさんぽ道」を歩いている。
フルマラソンは1年以上前に走ったきり。
早朝ジョグをしていた日々が、なつかしい。

必要な買いものをして
戦利品(主に本)を携えて、酒を飲む日々。
それなのに
ああそれなのに
軽い気持ちで申し込んだ、65Kmのウルトラマラソンの日がやってきた。


一週間前から、酒は抜くべき。
せめて前日くらいは、ノンアルコールで。
「おいてけ堀」で一杯、なんて、もってのほか。
なのに、なのに
「おいてけ堀」にこそ行かなかったものの
しっかり晩酌を愉しんでしまった。


酒くさい息で目覚めた当日。
道中は「ぺろりレストラン」のおにぎりとゆでたまごでキメた。
初めて仲間たちと走るということもあり
気楽にかまえてスタート。

のんびりおしゃべりしたり
初めて来たこのまちの景色を眺めたりして走り
この大会で評判の、種類豊富なおいしいエイドをいただき

たのしい!
楽勝かも!

などと思っていたのは、いくつめの港を越えたあたりだっただろうか。

一時間先にスタートしたチームとすれ違って
元気が復活したのも、つかのま。
徐々につらくなる脚と足。

でも、日没前には無事ゴール。
念願の「すべすべ温泉 ねこぞの」で汗を流し
マッサージ風呂でうっとり目を閉じていると
「今日はなにかあったんですか」
と、スタイルのよいおんなのこ。

ウルトラマラソンっていう大会があったんです、
ここは海もきれいだし本当にいいところですね、と答えると
「なにもないですよぅ」
と、おんなのこはくちをとがらせた。
その晩のビールはほんとうにおいしくて
めずらしく、酔わなかった。

2018年5月21日月曜日

ダンディからの贈りもの

思えばストイックな週だった。

「土俵そば」にも足を向けず
「おいてけ堀」には一度行ったか
あ、週末には「ニューねこ正」にも行ったか。
(どこがストイックなんだ)

毎朝毎晩、ラジオを聴きながら
よく歩いた。
なんだか体がすっきりした気がしたが
体重は着実に増えていた。


そんな週末の朝
思いがけない宅急便が届いた。
どしゃ降りフェス以来思いつめて、
人生初「TV番組へのメール」を送るも
放送終了間際だったので当然読まれず。
でも、プレゼントは届いた!

高校生のときに雑誌にイラストを投稿して掲載されたことを思いだした。
うれしいけど
は、は、は、恥ずかしい。