2021年4月16日金曜日

ほめられて・再び

通常以上にダメな1日を終えて「おいてけ堀」へ飛び込んだ夜。
今日はなくてもよい1日だったなと落ち込みつつも酒を飲んでひとごこち。すると憧れの大ママがカウンターに出てきて突然、髪の形がいいわねとにっこりひとこと。いつも厨房にいるのを遠目に見てすてきだなと思っていた大ママが!
ダメな1日がこのひとこと(そもそもこの髪型をつくった『サロン・ド・こけし』のマダムがほめられるべきことなのだけれど)で、最近撮った写真がマンホールのふたばかりで我ながらしけた生活をしているなと思っていたのが急に悪くないと思えた。
トレランの大会が迫っているのにまったく練習していないことに焦り、雨の中干潟へ向かって走り出した休日。この日もマンホールのふたばかり気にして走る。
広い広い市川市からようやく船橋市に入ったことに気付いたが、やんでいた雨がまた降り出し酒場の開店時間が近づいていることに焦って、干潟まであと2㎞のところでグッバイ船橋。
トレランどころか大会自体が久しぶりなのにこんなに練習していなくて大丈夫なのか、と思うが、大会よりも前日泊まる民宿が楽しみでたまらない。しかも初めてひとりで民宿へ泊るのだ。
生ものを大会前夜に食べるのはご法度だが、海のまちへ行くのに食べないテはない。

2021年4月9日金曜日

ほめられて

念願の海のまちへ出かけた、特別な日。
海以外なにもないので、特別な日に行こうと思っていたのだ。

のんびり砂浜を歩いてたまに水平線や遠くの島をながめ、好みの貝殻を探して歩き、ちょうどよい丸太を見つけて腰かけた。日陰で本を読みながらうとうとしたら気持ちよさそうな日。そう思ってこの日のお供に選んだ山口瞳「湖沼学入門」をバッグの上から撫でた。
山に囲まれて育ったから海があるだけでうれしい。

海のまちだけれど、行くのは喫茶店。
春になると登場するここのいちごケーキは自分にとって季節の風物詩であり、甘いものは苦手で、などと言っていられない特別なもの。
ここでしか見たことのない大きなまな板の上で注文の入ったサンドイッチを見事な手さばきで仕上げていくこわもてマスターがよく見える席でじっとその手つきを見る。いちごケーキはいちごがおいしくて、コーヒーをおかわりしてじっくり味わった。
薄暗くてコーヒー豆の香りが木の壁や床にしみこんだ古いお店。ここのブレンドは自宅で飲んでもこのお店の匂いがする。

予定も目的もなくいちごケーキでおなかもふくれて、むかし一度だけ行った森の中の雑貨屋さんがまちなかに越してきたことを思い出して向かう。まちなかといえど3㎞近く離れてはいるが、路上で売る花や野菜をながめたり年季の入ったビルで古書を売っているのを発見したり早くも田んぼに水が張ってありもうつゆ草が咲いていることに驚いたりしているうちに到着。制服姿の女の子とその両親が店主と話しており、店主は入学祝ですとなにかを手渡していた。
小さなそのお店をあちこち見て回っていると、鮮やかな金髪の店主からいい髪色ですね、と言われた。髪をきれいにしてもらっても酒場しか行かない身としてはうれしい。来てよかった。

パン屋さんでフンド氏へのおみやげにホットドックを買って一服しているといつの間にか隣にきれいな顔立ちのおばあさんがにこにこ立っていた。あなた、その赤いスニーカー似合ってるわね、と唐突に言われて、えへへ、ありがとうございますと答えた。新しい靴を履いても酒場しか行かない身としてはうれしい。

ほめられたからではないけれど、やっぱりこのまちが好きだなぁ。
愉しかった、いい一日だったな、とマスクの中でつぶやいた。

2021年4月5日月曜日

夜のラーメン

自堕落な毎日を改めようとつぶやいた舌の根も乾かぬうちに飲んで飲んで飲まれて飲んだこの週末、エリートランナーたちとの皇居ランでどうにか酒が抜けた。
先日サブ3を達成した別のエリートランナーも途中合流して、なんとか皇居4周を走り終えたらやっぱりお疲れビール。これは2日連続の迎え酒ではないかとの思いがちらっと頭をかすめたが飲んでしまえば結局元気になるのだからしょうがない。

金曜の夜は、そのラン仲間の奥さまたちと初の女子会ではしご酒。翌朝まだ酒の残る頭を支えながら洗濯ものを干していると、前日着ていた洋服からうどんが一本出てきた。また夜中になにか食べやがったな自分、と落ち込む。
意識がモウロウとしたまま「サロン・ド・こけし」へ。
ニッキのことを話し始めたら止まらなくなる。むくんだ顔とスポンジのような脳、そしてぼろぼろの内臓でもヘアだけは素敵に仕上げてもらってうれしくなり、ふらふら散歩しながら約束の飲み会へ。この日は「おいてけ堀」で仲良くなった仲間うちの女性のみの秘密の飲み会。
迎え酒だな、とうなだれて酒を啜っているうちに元気になってきた。とはいえ連日のはしご酒はやりすぎた。それでその翌朝の皇居LSDなのだった。
さすがに胃腸に力が入らず、なのに走り始めたら楽しくなって4周。当然のようにランチビールから始まって軽くはしご酒。エリートランナーたちはあまり食べずによく飲む。20km走って酒が抜けたのをいいことに調子づいて私も飲む。楽しく飲んで帰宅しバタッと昼寝していると何かお腹に入れたくなってきた。
こんなときはサッポロ一番塩ラーメンよ、とていねいにつくって啜ると、何度も読んでいる小説の「夜のラーメン」の章を思い出した。シチュエーションは違えど、しみじみよいものだなぁとつるつる食べた。

2021年4月2日金曜日

How's it going?

夜が更けてから唐突に、お弁当のおかずをつくり始めた。
料理は絵を描いたりものをつくることに似ているから楽しい。あれとこれを組み合わせたらどうなるか考えたり、これはちがうと思ったら方向転換したり。この晩は想像だけでつくった麻婆豆腐のようなものがうまくできた。
「ぺろりレストラン」のこわもてシェフに教えてあげようかしらん。

しばし没頭していると、楽しみにしていた志村けんのテレビの時間。
舞台を観に行ったときにけんちゃんが出てきただけでうれし涙と笑いが止まらなくなったのと、テレビにけんちゃんの顔が出ただけで笑っちゃうのは、けんちゃんからにじみ出る悲しみのようなものからだったのだなぁと今さらながら納得。でもひとみばあさんが出てくるとやっぱり笑っちゃう。かわいいんだもの。
好きなものがひとつあればいいんだよ、の最後の言葉がたまらなかった。

先日のトークイベントでの宇多さんといい、考えさせられることが最近ぽつぽつ出てきた。
フンド氏が遠くへ引っ越してからそろそろ6年、また引っ越しもしたくなってきた。
iPodではなく新しく買ったCDラジオで夜音楽を聴いたり、かと思えば徒歩通勤の際に久しぶりにラジオでなくiPodで音楽を聴いたりしているうちに、このぼんやりした自堕落な生活を少し変えたくなってきた。とはいえ、酒場にはいきますけどね。

2021年3月29日月曜日

石岡瑛子とRHYMESTERの交差点

いつもの休日とちがって朝からやる気がみなぎっていた休日、聞き逃したアトロクを聞きながらLSDに出かけた。
目的の公園までは川を3つ越えて行かねばならなくて以前は疲れて途中から電車で帰宅したのだが、なぜかこの日はあっという間に到着。
以前は釣り人がちらほらいたくらいだった川沿いの道も花見に向かう人たちでいっぱい。冬場は殺風景だった公園もたくさんの満開の桜で華やかに変身していた。前日の痛飲のせいで食欲がなかったがセブンティーンアイスをお供に公園内を眺めて歩いた。馴染みのない場所の桜はよいものだなぁと満足して帰路についた。

夜はライムスター宇多丸×河尻亨一トークセッション「石岡瑛子とRHYMESTERの交差点」を観覧しに誠品生活日本橋へ。
オンラインのみの予定だったが数日前に急遽、会場での観覧をご希望でしたら若干席を用意しますとの連絡があり、両手を上げて参加。
先日のRHYMESTERスタンプ会とは違ってトークショーだから気楽に話を聞きながら宇多さんを眺めていられると思っていたが、会場に入ると若干名と言っていた通り椅子が少ない。10名強ほどだったか。最前列になんて座れる度胸はないのでほどほどの席についてあたりを見回した。すると背後から、いやいやいやいや・・・と聞き覚えのありすぎる声が。脇をすりぬけていったのは、果たして宇多さんであった。
この感じ、緊張するよねぇとしきりに観客に話しかけてくれる優しい宇多さんとの距離は徒歩3歩。うれしすぎてなぜか機嫌が悪くなりそうな気持ちでその姿に見入っているうちにトークショーは始まった。
アイデアを思いつくのはそのことを考えているときではなくて、仲間との何気ない会話やお風呂に入ったときというのが瑛子さんと宇多さんの共通点と知って、PUNPEEの「夜を使い果たして」の、つくろうとしないでつくった曲を武器にたたかうよ、のリリックが浮かんだ。(意図は違うかもしれないけれど)これはわかる!わかります!と首がもげるほど頷いた。また河尻さんの言う「石岡瑛子とRHYMESTERの交差点」がたくさんあってびっくりした。モノをつくる人ってすごいな、と改めて思った。私もつくらなきゃ。
本編が終了して会場内からの質問を受け付ける時間。宇多さんも言っていたが、この雰囲気で手を上げるのってなかなか度胸いるよね、と思っていたが男性2名がそれぞれ質問。
そしてついに終わりの時間。
名残惜しくてぐずぐずしていると宇多さんが立ち上がって、この時間じゃこれからメシも食えないけどね、またどこかでね、でもライブもないからなぁ、あ、クリーピー?野音があるか、ホントにやんのかねぇ、でもあいつらライブやってるか、とみんなに話しかけてくれた。チケット先行落選しましたけどね、と心の中でつぶやき、積極的な女子が宇多さんと話している姿をじっとり見つめてさようなら。

それこそアトロクで知った現美での「石岡瑛子展」には、宇多さんや火曜パートナーの宇垣さんのアツい感想にいてもたってもいられなくなって出かけたのだった。それから銀座グラフィックギャラリーも前期だけ観に行くことができた。(後期は混みすぎていて断念)とてもいい映画をいっぺんに3本立てで観たような気持ちで会場を後にして手にしたのが河尻亨一さん著「TIMELESS 石岡瑛子とその時代」だった。
幼なじみが学生の時に石岡瑛子さんご本人の講演を聞いたと知って、てめぇは読み終わってもいないのにもう一冊入手して誕生日にプレゼントした。ふたりともRHYMESTERは大好きだし私は石岡瑛子を知ることができたしと喜んでいたら今回のこのイベント。幼なじみはzoomで視聴したのだが、家を出る寸前までふたりで相撲話をして間髪入れずにこのトークショー話。昼間29㎞のLSDをした疲れなどみじんも残っていなかった。

2021年3月25日木曜日

うおねこの小肌

せんべろという言葉が気に入らなかった。
中島らもがエッセイを書いていた頃ならともかく令和のこのご時世にせんべろなんてあるわけがないし、あったとしても安いだけが取り柄の味気ないお店でしょう、そう思っていたある日、信頼するパイセンが連れていってくれたそこは、おつまみの豊富さとおいしさからはちょっと考えられないせんべろのお店だった。
それどころか、せんべろを謳う巷の店とは一線を画す最高のお店であった。

信頼するパイセンが連れていってくれただけあってマスターもママもお客さんも、みんなやさしくてたのしい人ばかり。みなさん声にハリがあるし明るいなぁと思ったら、野球やサッカー、ゴルフなどで忙しい方たちばかりで、ライバルチームの主将同士も仲良く飲んでいた。最初にお皿に置いた千円札から注文した分をママが引いていくのだが、酔いがまわってきたころにもまだ小銭が残っていた。お料理は出来合いや冷凍ものではなくすべてママの手作りで揚げものも注文が入ってから揚げる。
「うおねこ」さんの小肌もいい〆具合。
感動して濃いめのホッピーで酩酊。

朝起きて、いまだお気に入りのホーローのやかんでお湯を沸かしているときに、ふと前の晩に見た夢を思い出すことがある。夢といっても、雰囲気や感触や匂いのようなもの。
最近自分から漂う自分ではない匂いの正体が加齢臭ではないことがわかってひと安心。たぶんね。

2021年3月23日火曜日

春のおすそわけ

先日連れていってもらった海の帰り道で出逢った湘南ゴールドは、かぼすくらいの大きさで固い皮をむいて食べるさわやかでおいしい柑橘。
ニューサマーオレンジといい、あの辺りでしか見かけない柑橘類が好きでよくおみやげに買って帰るが、帰宅したとたんに食べる気が失せるのでふと思いついた人におすそわけ。

今回は「両国図書館」の店主へ初めておすそわけした。
それほど親しい仲ではなくこちらが一方的に親しみを感じているだけなのだが、どうしてもあげたかったのだから仕方ない。たしかここの店主も海の育ちだと聞いている。

後日いつもの席でいつもの酒をしみじみ飲んでいたら、美味しかったです、初めて食べましたよ、と店主がやってきた。おすそわけのことはすっかり忘れていて、お礼を言われて急に恥ずかしくなり、ええ、とかうう、とかしどろもどろで答えた。