2019年3月5日火曜日

機密事項と謎

ある友が言った。

最近あまりにあちこち傷めたりケガが多かったりするので、ふと思い立って盛り塩してみたらあちこちのケガの痛みが治まった、と。
あなたはオカルトな人間ではないのになぜ盛り塩なのか、と問うと、う~ん、なんとなく、とのこと。へえ、怖いけどよかったね、とやはりなんとなく答えたが、ある日突然それを思い出し、彼女を真似てランタン柄の小皿にバリの塩を盛って置いてみた。

あちこち傷めてもいないしケガもしていないが、ずっと考えていたことにその日結論が出た。目が醒めた。(些細なことの積み重ねで傷ついていたので、傷めてはいたのか)
盛り塩、おそるべし。

このバリの塩を使って・・・はいないが、おいしい塩をちょこっと使った「ぺろりレストラン」のお料理は、家庭では真似できない味。
スパゲッティハンバーグのパスタを茹でるときにひとつまみ。
やきそばサラダのサラダにひとつまみ。
クリスマスのピザ生地にひとつまみ。
これで魔法のようにおいしくなるらしい。
どこのなんて塩かは、企業機密。


「BAR GABGAB」の水割りは、バーボン自体は平凡なものなのに不思議にうまいと評判だ。
バーテンダーが毎日汲んできているという井戸水のせいではないか、いやどこぞの神社の手水ではないか、など常連さんの噂が後をたたない。
ほんとうのところは、謎。


「おはよう商店」の朝ごはんは、どんな朝にもよく合う。
ひどい二日酔いの朝でも、自分の腹の虫の音で目覚めるくらい食欲旺盛な朝でも、彼(もしくは夫)との予定のない休日の朝でも、恋が終わった朝でも、必ず食べたいものがある。
ただ、セクシーサンドのセクシーさがいまひとつ、謎。



盛り塩の塩は、けっして食卓に置いてはならないらしい。
ゆでたまごにちょっとつけるなんて、もってのほかなんですってよ。

2019年3月4日月曜日

猪突猛進

ようやく、ようやく、大好きな本屋さんへ行くことができた。
それまでどんな黒い気持ちを持っていても、そこへ行くと、元の自分に戻ることができる。例外なく、このたびもそうだった。
愉しいニュースにお誘い、うれしい言葉。
ああ、この本屋さんとめぐり逢えて、本当によかった。

愉しい気分のまま、スカイツリーの近所に引っ越したフンド氏にあいさつ。
そろそろ4年になるんだね、としみじみ。

今夜届く荷物を受け取ったら「ニューねこ正」へ行くぞ、と意気込んで歩いていたら、沈丁花を手にした未亡人会の会長と遭遇。
あら今夜はどうすんの、と聞かれたので、荷物を受け取ったら行きますよ、では後ほど、とあいさつして家路を急ぐ。

荷物はまだ来ない。
ビールでも飲むことにする。
つまみなしのビールは味気ないので、先日の旅みやげで友にあげそびれたかまぼこを一切れ口に入れる。なにこれおいしい。
さらにもうふた切れ。うまい。あとふた切れだけよ。ああ、やめられない止まらない。
主のいないかまぼこ板をながめて、表札のことなど考える。

荷物はいっこうに来ない。
野菜のつまみがほしい。よしあれをつくろう。切って炒めるだけのあれ。
お皿いっぱいにつくったつまみを口に入れる。我ながらおいしい。半分にしとかないと「ニューねこ正」の愉しみが半減もしくは全減よ。あとひとくち。ああ、やめられない止まらない。
主のいないヒョウ柄の皿をながめて、義兄は元気かな、などと考える。

荷物は来る気配もない。
ビールどころか、冷蔵庫にあった生酒も残りわずかとなってしまった。ああもう、こうなったら少し手はかかるがあれもつくってしまえ。
これは余らせてお弁当のおかずにするんだぞ。わかってるな。って誰に言い聞かせてるんだ。自分だよ。ああ、こりゃ酔ってきたな。
う~ん、我ながらおいしい。フンド氏もこれ好きだったなぁ。いや、別の男だったっけ。それとも女?もうわからなくなっ・・・・

「ピンポーン」

ようやく荷物を受け取ったが、もう「ニューねこ正」に行く気は失せていた。
そんな、よくある夜の話。



旅先で見かけた不憫な親子と、ボーイフンド氏の干支。
たったこれだけの接点だったいのししに、もうひとつ接点を発見。
それは、猪突猛進。

熱しにくく醒めやすい性質なので、短期間に終わるかもしれない。
それどころか、まだ始めていないのにやや醒めはじめている気もする。
でも、なにごとも勢いよ。
今までだって、計画立ててものごとを始めたことが一度でもあったか?ないだろ?
(誰に言っているのか)
思い立ってから3日。なんとなく今週から、いろいろ始めます。


そして


甘夏書店さんでマッチやおべんとうノートをお買上げくだすった奇特なみなさん、ありがとうございました!

2019年3月1日金曜日

ソロ活動、開始

なんだかんだと忙しかった日々から解放されて、マンネリな日常に戻った。
つまり約束のない夜。
酒場には目もくれず、いそいそと帰宅して、スマホの音を切って本を読む。
その本がまたおもしろかったものだから、止まらない。
風呂場にまで持ち込んで、上下巻、嗚咽しながら読了。
(泣くような類の内容ではないのだが)
こういうの、溜飲が下がるとか、カタルシスとかいうんだっけ。

いきおいづいて、次の本を手に取る。
こういうときは、思い切り不吉な本がよいだろう。
次なる世界との出逢いに目がギンギン。
あまりにも幸せなこんな時間を、なによりも求めていた。


別の日。
今年初めてのライブに登場。
久しぶりにあっという間の3時間だった。
新しい曲は背筋になにかが走るほど最高だったし、一見関係のなさそうなあのミュージシャンとこのミュージシャンがつながっていて、あんな曲がこのような場所で聴けたり、実は初めて聴いた初期の曲、とてもよかったなあ。



旅先にて。
どうにも体調がすぐれず、薬を求めてさまよった商店街で見つけた、漢方薬局の悲しい親子。
今年の干支なのに、不憫でならない。
でも親切なボスでよかったね、と心の中で声をかけて別れた。

2019年2月19日火曜日

bless You!ハセガワ

先日入手したばかりのCDを聴いていたら、あ、これ好きだ!という曲を発見。
リリックをチェックしたら、テーマを走ることに喩えたものであった。

この曲を脳内ヘビロテしながら走ることができたら、気持ちいいのだろうなぁ。
などと他人事のように考えながら、この数日間で何度ヘビロテしたことか。
1週間後は、マラソン大会。
ああ・・・


別の日。
おひさしぶりねの「おいてけ堀」で、大きなテーブルで相席になった。
ご年配の男女6人ほどだっただろうか。
各自1皿ずつお豆腐を頼んでおり、舌鼓を打っていた。
こちらもお豆腐をください、と注文すると、同じテーブルのみなさんがこちらに微笑んで頷いた。この感じ、小説で読んだことがある。

香港で入ったレストランで、黒社会のにおいのする老齢の男性がオーダーしていたウェルクという貝。主人公がマネして注文したら、その男性がこちらを見て微笑んで頷いた、といったシーン。
そもそもその貝はメニューに載っていない、おそろしく高価なものでお豆腐とはまったく異なるのだけれど、同じおいしいものを注文した者どうし、ようございますね、といった気持ちはよくわかる。

「ときに、ハセガワはどうなんだ」
「ああ、ハセガワね」
「ハセガワは、たしか・・・」

温奴の生姜にむせて、かつおぶしが喉をふさいだ。
ここにも「ハセガワさん」の知り合いが。
しかも、これまで出会った(というより盗み聞いた)方々と違って、ヨビステだ。
話題までは盗み聞きしなかったけれど、急に酔いがまわってきた。



深夜のラジオ番組を朝に聞くのが好きだ。
夜の空気をまとった声と音楽が、朝のせわしない時間になぜかしっくりする。
いつものように深夜のラジオ番組を朝聞いていたら、件のヘビロテ曲(※『両国のひと』ではない)が流れてきた。

こんな日は、きっといい一日になる。

2019年2月12日火曜日

雪の日に小豆を炊く

ぽっかりできた、自由な休日。

まずは惰眠をむさぼり、家事をこなして、長風呂。
酒のつまみ以外、ほとんどなにも入っていなかった冷蔵庫を食料で満たし、ていねいに料理をつくる。
途中ひと休みして、買ったばかりの文庫本を開く。
ラジオから好きな曲が流れる。
つぼみが大きくなってきた沈丁花の様子を見に、何度もベランダへ。

いただいた小豆を炊いたりなどして、約束の時間より少し早めに家を出る。
街に、体格のよい男の子があふれていると思ったら、「聖地」では白鵬杯をやっていた。
お互いにふんどしを締めあう子どもたちや、リラックスした表情の白鵬を眺めて、得した気分。

久しぶりによい時間を過ごした日のその晩は
会いたかったひとにいっぺんに会えて、おもわず深酒。


いつもすれ違いのあのひとも上階にいたらしいが、こんな酔っぱらい姿を見せるわけにはゆかず、この日もお目通しはかなわず。

2019年2月4日月曜日

わけもなく

わけもなく 家出したくてたまらない ひとり暮らしの家にいるのに(枡野浩一)
この句が頭から離れない時期があった。
今では、家出のことなど考える余地もない。



それはさておき
現在絶賛開催中のイベント「食のお座敷ブックマルシェ」
いつ行かれるのか不明ではあるけれど、必ず行くからそこで待ってろよ。
(誰に言っているのか)

マッチ売りの中年の新作は三点。
ねまちの名店「ぺろりべんとう」さん考案の、おべんとうノート。
表紙の包みをほどくと、三種類のおべんとうが現れる。


 しゃけとあまいたまご焼き、ポテトサラダのおべんとうに
えびフライとチャーハンのおべんとう
おいなりさんとのり巻きの助六べんとう
裏にはだじゃれサイン。
おわかりいただけただろうか。

記憶に残るおべんとうを記録して、すてきなおべんとうノートをつくってみてはいかが?
箸袋コレクションをこちらにまとめてもよいでしょう。


「食のお座敷ブックマルシェ」

2019年1月27日(日)~2月23日(土)
12:00~18:00(最終日~17:00)
※火曜水曜定休 ※2/11~2/20臨時休業
墨田区向島3-6-5 一軒家カフェikkA2F 甘夏書店

2019年1月30日水曜日

帰ってくれてうれしいわ

友と軽く呑んだあとに、あのバーに行こうということになった。
いや、本当は友のひとりが行ってみたいというお店をさがしたが見当たらず、三人で頭を突き合わせて調べたら、たしかに今いる場所でまちがいないのにそこには店自体がなく、狐につままれた気分で途方に暮れていたら、そうだ、この近くにあのバーがある、と思いだしてそこへ向かったのだった。

あのバーがあるにしては小ぎれいなビルだな、といつも違和感を抱いていたそのビルに馴れた調子で入り、そこだけはあのバーに似合っているといつも思っていた扉に手を掛けると、なにかがおかしい。看板がない。
扉もあるしビルの入口に店の名前も書いてあるのに、とまたも途方に暮れる三人。

ひとりならあきらめてさっさと河岸を変えるが、そこは、三人寄ればなんとやら。
スマホをにらんでいた、あきらめない友のひとりが声を上げた。
すぐ近くに移転したみたいだ、行ってみよう。
あっけなく見つけたそのビルは、エレベーターから通路から、あのバーにぴったりの佇まい。
そして、やはりあのバーにぴったりの扉の向こうには、少し広くなっただけで変わっていないあのバーがあった。
これも変わっていない、不思議にうまいハイボールで乾杯してから、へんな夜だね、と口ぐちに言い合う。

しかしここのハイボール、どうしたらこんなにおいしくなるんだろうね、といつものようにハイボールを褒めながらほどよく混みあったカウンターを眺めると、なにやらおつまみのようなメニューがコースターに書かれて画鋲で留めてあるのが目についた。

そういえば、ここのバーテンさんはお料理がとても上手らしいよ、と友のひとりが言うのでそれを頼んでみると、平凡なメニューのはずのそれは、えもいわれぬおいしさであった。
これは、ほかのものも食べてみなければね、とひそひそ話をしていると、どうぞ、とお店のひとがメニュー表をくれた。

昂奮して頼んだいくつかのおつまみは、どれも想像を超えたおいしいものばかりで、何度も空になるグラス。


そういえば、メニューに価格がないね


あきらめない友のひとりがぽつりとつぶやいた。
顔を見合わせる三人。
三人寄ればなんとやら(再び)っていうしさ、三人もいればなんとかなるよ、皿洗いなら任せてよ、と口ぐちに言いながらも、頬がひきつる面々。


あのバーがぼったくりバーだったらおもしろいかも、などと失礼なことを考えながら結局なにごともなく、濃い香水の香りの漂う夜のまちを帰った。



そういえば
何年ぶりかで宿泊した海の近くのホテルでエレベーターを待っていると、低くジャズが流れていることに気付いた。

それはヘレン・メリルの「帰ってくれてうれしいわ」
ただの偶然だけれど、にくい選曲だなぁと、にやにや笑いが止まらなかった。