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2019年7月22日月曜日

東京でいちばんおいしいハイボール

いろいろの用足しの合間に、ぽっかり空いた時間とお腹。
さてどうしたものか、と思案をめぐらしているうちに、あのお店が浮かんだ。
そうだ、あのお店の東京一おいしいハイボールで時間をすごそう。
世の中はランチタイム。しかしそのお店はそんな時間からひっそり開店し、夜は意外に早く店じまいをするのだ。
今日ならあのカウンターに並ぶおもしろそうな本をめくりながら、いや背表紙をながめるだけでもおもしろそうだけれど、小さな紙に書かれたおつまみのメニューをじっくり研究することもできそうだ。

変わったつくりのビルの変わった形のエレベーターに乗り込んで目当てのフロアに下り立つと、果たしてそこには、あの扉が待ち受けていた。

時計を見たら開店時間ぴったりで、当然口開けの客であった。
ハイボールをください、と言い、さっそくカウンターに並ぶ本の背表紙を見る。どれもじっくり読みたい本ばかりだ。はやる胸を抑えて、小さな紙に書かれたメニューを見る。どれも味わってみたいおつまみばかりだ。
目を本とメニューにやったまま、東京一のハイボールをすする。
どうしてこんなにおいしいハイボールをつくることができるのか、以前その秘密を訊ねたことがある。特別なウイスキーを使用しているわけではないとのことで、ますます謎は深まった。
「Bar GABGAB」の水割りがおいしいのは、白ママの自宅近くの神社の手水を使用しているからではないか、という話はこの界隈では有名な話。


そういえば朝からなにも食べていなかった。
穴が開くほどメニューを見て気になった「緑のきつね」なるおつまみを頼んで、カウンターに置いてある瓶の中の落花生をつまみながら、気になった本をそっと開く。
こんなおもしろい本を無造作に置いているなんて、私のような客がヘンな気を起こしたらどうするのだ、と喜び怒っているうちに「緑のきつね」の皿が目の前に置かれた。
緑のきつねって、そうか、こういうことか、とにやにやしながら口に運ぶ。

おいしい。
たれている目がさらにたれるほどおいしい。見た目も実においしい。
写真は撮らない。撮ったとしても誰にも見せたくない。
ああ、今すぐ誰かに伝えたいこの気持ち。
あの友だちとあの友だちとフンド氏に自慢したのちに、一緒にここへ来てまた食べたいくらいおいしい。大騒ぎしたい気持ちをぐっとこらえて、2杯めのハイボールに口をつける。おいしい。2杯めも、やっぱりおいしい。

こんな時間を過ごしたのは久しぶりだなぁ、と千鳥足で店を出る。
外は当然明るくて、世の中はまだランチタイムであった。

2019年7月19日金曜日

不審者とタクシードライバー

あれはまだ、ひどく弱っていた頃のこと。
自宅から離れた繁華街の酒場で、当時好きだったギタリストに遭遇して握手してもらった夜。
相当飲んだのにまったく酔えず、寝てもいないのに電車を降りすごしたので戻ろうとして逆方向の電車に乗ってそれに気付いてまた下車、もう一度よく考えて電車に乗りなおすもまた間違えて、やはり酔っているのか、と観念して適当な駅で下車、日曜日の夜の終電にはまだ早い時間、すぐにつかまったタクシーに乗り込むと話し好きな年配の運転手さんで、道々にある暗くて見えない歴史的建造物などをていねいに説明してくださるもこちらは弱っている上に酔っているので、はぁ、としか返事はできず、なぜかこの運転手さんになにもかも話してしまいたいという気持ちが抑えられなくなり、私、弱っている上に酔っているのでこれからおかしなことを話しますけど聞いていただけますか、と前置きしたのちにとりとめのない話を始めたら、驚いたそぶりもなくていねいに聞いてくれたので、誰にも言えなかったことを全部話して、知らない人にも仲のよい人にも胸の内をここまで話したことはそれまでも今もないけれど、こりゃへんな客を乗っけてしまったな、と運転手さんは思っているだろうと申し訳ない気持ちになったのに、タクシーを降りるときに、お客さんは大丈夫ですよ、がんばってください、とやさしい声で言われたことは忘れられないしどれだけ支えになったかわからない。
運転免許は持たないが、夜のだらだらドライブが好きだ。
夜の深い時間帯にラジオを聞きながら景色が流れていくのを見ていると、あの運転手さんを思い出す。


そういえば
酒場で遭遇したギタリスト、お手洗いから戻った彼の手は乾いていた。
と、いうことは・・・

2019年6月24日月曜日

キャンプだホイホイホイ

キャンプというものをしたことがなかった。
飯盒炊さんなら経験はあったが、集団行動が苦手なインドア派。
思春期のころからそういうときに積極的に手を出す・働くのが照れくさく、一周まわってなにもしないというのが身について、キャンプなんてリア充のするこった、と遠ざかっていた。

しかし

キャンプとキャンプ料理のプロ(ディレクター=D)におんぶ&だっこのキャンプ in 河口湖は、最高だった。


週末は雨予報だったにも関わらず、まったく降られなくて(仲間に聞いたら、どうやら私以外は晴れ男女)山々や船を眺めながら、ぺちゃくちゃ喋りながら、きょろきょろしながらのランは心から気持ちよかった。
テーマが「ゆるラン」だったのでさほど走っていないが、ランのあとの温泉も気持ちよかった。

Dが数日前から仕込んでくれた燻製はDが担当し、あとはDの指示でおもしろいごちそうができ上がってゆく。桜のチップの燻される匂いは、思ったより主張の激しい、でもクセになる匂い。

私が担当になった餃子ピザは、とても簡単な上にすぐ食べられるので、自分のレシピにこっそり頂戴しよう。Dや仲間たちの焼いた肉など、実は高価な食材ではないそうだけれど、とても味わい深くてしっかりと噛みしめた。

ふと気づけば、包丁を使ったり調味液をつくったり、食べるものは食べ、飲むものは飲み、とてもリラックスしていた。ついに来たか、リア充のときが。
飲み疲れた仲間たちが先に寝て、明日の朝食の準備も終わり、さてこれからどうするのか、とDに尋ねると、薪を燃やすんだよ、と事もなげに言う。
燃やす?ただ燃やすの?と聞くと、そうだよ、燃やすんだよ、と禅問答。
男性は、火と棒が好きだっていうからねぇ、というとDともうひとりは不思議そうな顔。

きっと炎を見つめながら内緒話なぞするのだろう、と考えるも、ただ炎を見つめてワインをすする中年三人。炎に夢中になる。なんだこれ。クセになりそう。


翌朝もまさにラン日和。
朝食前に軽く行ってみよう、と、湖に浮かぶ六角堂を見に行ったり、願いが叶うという鐘を鳴らして鳴らしたあとに願いごと何にしよう、とあわてたり、ラベンダーやバラの香りを胸いっぱい嗅いだりして気持ちよく走った。


¥100で1分半利用できるシャワーでもたついて泡を残したまま立ちつくしたり、おいしすぎておかわりした朝食の片づけを終えて、慌ただしくコテージを後にする。
いいところあるよ、とD主導で行った神社がとてもおごそかで、樹木信仰という言葉の意味が少しだけ理解できた気がした。
そういえば、河口湖にいながら富士山の存在を完全に忘れていた。
看板につられてその先の山中の滝へ。
すがすがしいってこのことだね、と言いながら山道を下り、滝に沿って木製の階段を上がり、気付けば山道を走る中年たち。次回のキャンプ、2日目はトレラン練習でここに来よう、と早くも次のプランも決定。

帰りに地元のとうもろこし・甘々娘(かんかんむすめ)を手に思案していると、夏になったら今度はここにメグミが並ぶよ、俺がつくってるんだメグミ、とごま塩ヒゲのおじいさんが言う。あの、そのメグミってとうもろこしのことですか、と尋ねると、甘いぞぅ、トンネルの向こうの畑で作ってるからよ、と立て板に水の勢いで話してバイクで去って行った。


その晩は、カラダが自然にかわいこちゃんのいるお店へ。
こんばんは、と縄のれんをかきわけると、大将とたまに会う常連さんが笑っていた。ちょうどさっきまで噂していたんですよ、と言う。かわいこちゃんはまだ出勤していなかった。
話をするうちに、日本酒からなぜかうどんの話になり、長崎港のうどんを思い出した。
九州出身のその常連さんは、桜島からのフェリーの中で食べたうどんが最もおいしかったという。ああ、そういう話、大好物なんだよなぁと酒が進む。だって港だし、船だし、うどんだし。さらに、スポーツマンで話し好きな大将が実は人見知りで絵が好きな少年だったと聞いて、驚きのあまりまた酒が進む。

キャンプ効果なのか、肝臓まで回復していることに気付いた。

愉しく飲んで帰宅する途中、携帯電話が鳴った。大将からだ。
いま、たった今帰ってきました、ごめんなさい遅くなって、と弾む声で大将は、かわいこちゃんの出勤が遅れたことを詫びた。

2019年6月3日月曜日

体調が悪くて健康的な日々

あれからずっと、大酒が飲めないでいる。
カラダが、アルコールを欲していないのだ。
ウイスキーが、特にだめになった。
大好きだった日本酒さえも、今は顔も見たくないほど。

こんなことは今までなかった・・・って歌が昔々あったな。
なんてせつない大人の恋の歌!と感心していたら、なんてエッチな歌詞なんだ!と感心している男子がいたな。元気だろうか。


同級生たちと初めて一緒に出たマラソン大会。
お天気も気温も、大会そのものも、なにひとつ言うことはないほど、いい日であった。
ただひとつ、自分の体調を除いては。


大会前日は、文太くんにトレーニングに付き合ってもらった
・・・が、この日はとてもさわやかな、いい天気。
この時期に帰省することはなく、めずらしい花なんかも咲いているので、散歩に変更。
りんごの花をもっと微かにしたような香りの、低木についていた花。
調べたら、キウイの花であった。
矢車草やしろつめ草、あかつめ草やわすれな草がそこかしこで咲き乱れており、ほんのひと月でこんなに違う花が咲くのか、と感心した。
文太はいつも、キジの声を聞いて日がな一日過ごしているらしい。
たまの私との散歩では、おぼれない程度の深さと水量、そして美味しい水の流れる側溝探しに余念がない。
この日はかなり軽めにキメたつもりなのだが、帰宅するなり文太は大きなため息をついてバッタリと寝てしまった。

結局このトレーニング(散歩)だけで臨んだ、第5回安曇野ハーフマラソン。
ここ最近の著しい酒量の低下と、なくなった悪いクセの効果は特になく、カラダが前に進まない苦しい21㎞であった。

途中、後ろを走っていた男性が、あの花はラベンダーですか、と沿道の人たちに尋ねていた。矢車草だよ、と言いたかったが、息も絶え絶えで言えず。

この大会に誘ってくれた同級生たちとはまた別の、同じ中学校の仲間たちと不思議な再会を果たし、帰りのシャトルバスの行先を間違えて豊科の温泉郷方面まで往復ドライブしてしまったのも、いい思い出。わさび沢の水がきれいだったなぁ。
・・・はとエアラインに乗んなさいよ。


同級生たちと別れて駅をぶらぶらしていたら、大雪の初デートで見た0番線ホームを発見。
感慨にふけることもなく、ホームにお蕎麦屋さんを見つけて喜び勇んで入った自分にウン十年の月日を感じて、悪くないな、と思った。
帰りの電車でためしにワインを飲んでみたが、カラダは喜んでいなかった。
さらにカラダが欲していないというのに、おさわりOKのかわいこちゃん(ねこ)のいる酒場へ。
大将がくれたかにかまを、おさわりNGのかわいこちゃんに食べさせるという、たまらないサービスをさせてもらって、そこそこ酔って帰宅。やはりカラダは喜んでいなかった。

調子が悪くて健康的、というのが腑に落ちない。

2019年5月17日金曜日

落としものは何処

あれからもう1週間近く経つというのに、まだ興奮が醒めない。

ふと気づけば「〽愛はおしゃれじゃな~い」とくちずさんでおり、夕暮れどきに歩いていると、心地よかったあのときの風を思い出す。
タオルもサングラスも帽子も鍵も、やさしさも落としていない。
ただ、頭のねじをいくつか落としてしまったようだ。



聞いていたラジオがおもしろくて、帰り道に迷子になった。
ここはどこ?と踵を返すと、朝たまに通る道であった。
逆に歩いていただけなのに、どこまで方向音痴なんだ。
誰も見ていないのに恥ずかしくなって、もくもくと歩いて思わずいつもの酒場にイン。
酒場には、ここのところよく隣り合わせるプロ雀士。

こないだあすこに座ったとき、なに話したっけ?
う~ん、なんでしたっけ。
なんだっけね、思い出せなくてさ。
え~と、え~と

どうせたいした話しなんてしていない。
アハアハ笑っていたのだけ覚えている。
しかし、あの晩はさほど酔っていなかったというのに、なにも覚えていないとは。
頭のねじをいくつも落としたこの頭には、なにが残っているのか。

それは、楽しかった約1週間前のことだけ。

2019年4月23日火曜日

春のおべんとう

春のおべんとうは、外で食べるのがよい。
もっというと、水が見える場所なら言うことはない。川とか海、湖、池とかね。
川を眺めて春のおべんとうを食べていたら、思い出した。

むかしむかし、森の中の大きな池のほとりでおべんとうを食べていたときのこと。
その池は木々の緑と水の青が混ざった、なんとも深い紺色でとろりと静かだった。
吸いこまれるようなその水面をみつめながら口を動かしていると、池にかすかな波紋が広がった。
見たこともない大きなかえるが泳いでいた。
少し離れた水面がすうっと動いた。大きな魚の姿が現れた。
透きとおった池を両者が並んで泳いでいたさまと、食べていたおべんとうのことは、忘れるはずがない。


離れた場所にあるギャラリーを教えてもらって行く気になったのは、以前住んでいたまちに近い場所だったから。
電車を乗り継いで、わざとひとつ手前の駅で降りて歩く。

20年ほど前に住んでいたその家は、当時から古かった。
もう取り壊されているだろう、と寂しい気持ちで見に行くと、なんとまだ健在であった。
またここに住むのもいいな、とちらりと考えるも、既にどなたかが住んでおられるようだった。
教えてもらったギャラリーは、以前よく行っていたアンティーク屋さんだった。
珍しくぶらぶらしたくなり、本屋さんをはしごしたり通りかかったギャラリーに立ち寄ったりして、なんとなく気になった喫茶店に入った。
お店のドアを開けたら好きな曲がかかっていた。
店主は声のよく通るおじいさんで、ていねいに淹れてくれたコーヒーはとてもおいしくていい気分でお店を見まわすと、メニューも実に好ましかった。

最近あてもなくぶらぶらするなんてこと、なくなったよねぇと友だちと話していた舌の根も乾かぬうちになつかしいまちをぶらぶらしたその晩は、やっぱりいつものお店で一杯。
その席に座っていてくれると安心しますよ、と店主に言われて、調子に乗って根が生えるほど飲んでしまった。途中、おさわりOKのかわいこちゃん(ねこ)を思うぞんぶん撫でくりまわして、ねこの充電も完了。
帰り道、おさわりOKのかわいこちゃんをいじめるけしからんねこ(店主談)と遭遇したので、あんた、いじめはやめときなさいよ、と僭越ながら進言。けしからんねこは、なんだこのよっぱらい、と怪訝な顔でこちらを見て去って行った。
この日の戦利品のひとつ、すてきな包み紙のお店のドレッシングの封を切って明日のおべんとうのおかずを、もくもくとつくる。
休日以外もどこか水の見える場所でおべんとうを広げようかな、と、もくもくとつくる。

2019年3月25日月曜日

ねこにやさしく

うっかりしていたら、三月場所が終わっていた。
今場所は、TVで一瞬目にしただけだった。
「深川福々」の会議で三月場所の話題になったときにも、まだ初場所が終わったばかりなのになぁ、などとスットコドッコイなことを考えていた。


その「深川福々」は、先週発行された。
今回は「ふかがワンダーランド」の記事を書いた。
・・・まずは体幹を鍛えないとね、というのが、取材直後の感想であった。
温故知新コーナーでは、あの辺の方なら誰もが知っているあの方のマル秘写真が!
大江戸線 清澄白河駅などでお手にとってみてください。


体幹については、先日コーヒー豆を買いにいったときにも話題になった。
コーヒー屋さんは、私が以前出たことのあるマラソン大会にご夫婦で出られるとか。
病み上がりの奥さまはしきりに不安がっておられたが、とにかくいい大会だから楽しんできて、と伝えた。そして体幹鍛えましょうと誓い合った。

病気を克服してから味覚が鋭くなったのか、奥さまは市販のルウでつくるカレーを受け付けなくなったという。
オムライスとえびフライの名店なら、教えてあげられたのになぁ。



ごぶさたしていた、義理の両親のお墓参りに行った。
自宅近所のお花屋さんでスイートピーの花束をつくってもらったので、道中ずっといい香りが漂っていた。
お隣さん(お墓の)とこの大木が伐採されており、切りかぶの形の複雑さにしばし見入る。すみれが咲いていた。


とある休日、今夜はここに行くと朝から決めていたお店へ。
隣り合ったひとと、しばしねこ談義。
彼女の写真を見せるようにいそいそと、まだ3歳のかわいこちゃんの写真を見せてくれたそのひとと話しながら、先代のアヨちゃんやぼっちゃんのことを思い出した。
ねこにやさしいひとと話すと安心するなぁ、と気づけば酔いが回っていた。

2019年3月5日火曜日

機密事項と謎

ある友が言った。

最近あまりにあちこち傷めたりケガが多かったりするので、ふと思い立って盛り塩してみたらあちこちのケガの痛みが治まった、と。
あなたはオカルトな人間ではないのになぜ盛り塩なのか、と問うと、う~ん、なんとなく、とのこと。へえ、怖いけどよかったね、とやはりなんとなく答えたが、ある日突然それを思い出し、彼女を真似てランタン柄の小皿にバリの塩を盛って置いてみた。

あちこち傷めてもいないしケガもしていないが、ずっと考えていたことにその日結論が出た。目が醒めた。(些細なことの積み重ねで傷ついていたので、傷めてはいたのか)
盛り塩、おそるべし。

このバリの塩を使って・・・はいないが、おいしい塩をちょこっと使った「ぺろりレストラン」のお料理は、家庭では真似できない味。
スパゲッティハンバーグのパスタを茹でるときにひとつまみ。
やきそばサラダのサラダにひとつまみ。
クリスマスのピザ生地にひとつまみ。
これで魔法のようにおいしくなるらしい。
どこのなんて塩かは、企業機密。


「BAR GABGAB」の水割りは、バーボン自体は平凡なものなのに不思議にうまいと評判だ。
バーテンダーが毎日汲んできているという井戸水のせいではないか、いやどこぞの神社の手水ではないか、など常連さんの噂が後をたたない。
ほんとうのところは、謎。


「おはよう商店」の朝ごはんは、どんな朝にもよく合う。
ひどい二日酔いの朝でも、自分の腹の虫の音で目覚めるくらい食欲旺盛な朝でも、彼(もしくは夫)との予定のない休日の朝でも、恋が終わった朝でも、必ず食べたいものがある。
ただ、セクシーサンドのセクシーさがいまひとつ、謎。



盛り塩の塩は、けっして食卓に置いてはならないらしい。
ゆでたまごにちょっとつけるなんて、もってのほかなんですってよ。

2019年1月30日水曜日

帰ってくれてうれしいわ

友と軽く呑んだあとに、あのバーに行こうということになった。
いや、本当は友のひとりが行ってみたいというお店をさがしたが見当たらず、三人で頭を突き合わせて調べたら、たしかに今いる場所でまちがいないのにそこには店自体がなく、狐につままれた気分で途方に暮れていたら、そうだ、この近くにあのバーがある、と思いだしてそこへ向かったのだった。

あのバーがあるにしては小ぎれいなビルだな、といつも違和感を抱いていたそのビルに馴れた調子で入り、そこだけはあのバーに似合っているといつも思っていた扉に手を掛けると、なにかがおかしい。看板がない。
扉もあるしビルの入口に店の名前も書いてあるのに、とまたも途方に暮れる三人。

ひとりならあきらめてさっさと河岸を変えるが、そこは、三人寄ればなんとやら。
スマホをにらんでいた、あきらめない友のひとりが声を上げた。
すぐ近くに移転したみたいだ、行ってみよう。
あっけなく見つけたそのビルは、エレベーターから通路から、あのバーにぴったりの佇まい。
そして、やはりあのバーにぴったりの扉の向こうには、少し広くなっただけで変わっていないあのバーがあった。
これも変わっていない、不思議にうまいハイボールで乾杯してから、へんな夜だね、と口ぐちに言い合う。

しかしここのハイボール、どうしたらこんなにおいしくなるんだろうね、といつものようにハイボールを褒めながらほどよく混みあったカウンターを眺めると、なにやらおつまみのようなメニューがコースターに書かれて画鋲で留めてあるのが目についた。

そういえば、ここのバーテンさんはお料理がとても上手らしいよ、と友のひとりが言うのでそれを頼んでみると、平凡なメニューのはずのそれは、えもいわれぬおいしさであった。
これは、ほかのものも食べてみなければね、とひそひそ話をしていると、どうぞ、とお店のひとがメニュー表をくれた。

昂奮して頼んだいくつかのおつまみは、どれも想像を超えたおいしいものばかりで、何度も空になるグラス。


そういえば、メニューに価格がないね


あきらめない友のひとりがぽつりとつぶやいた。
顔を見合わせる三人。
三人寄ればなんとやら(再び)っていうしさ、三人もいればなんとかなるよ、皿洗いなら任せてよ、と口ぐちに言いながらも、頬がひきつる面々。


あのバーがぼったくりバーだったらおもしろいかも、などと失礼なことを考えながら結局なにごともなく、濃い香水の香りの漂う夜のまちを帰った。



そういえば
何年ぶりかで宿泊した海の近くのホテルでエレベーターを待っていると、低くジャズが流れていることに気付いた。

それはヘレン・メリルの「帰ってくれてうれしいわ」
ただの偶然だけれど、にくい選曲だなぁと、にやにや笑いが止まらなかった。

2019年1月10日木曜日

「玉カフェ.福の市」と 本文までたどり着けない本

ようやっと完成したのは、おめでたいお弁当。
(写真はそのうちFBに上がると思います)


「玉カフェ.福の市」
2019年1月11日(金)~1月29日(火)12~18時
(水)(木)定休
※1月12日(土)13:30-15:30貸切
※最終日29日は入店16時まで。

玉ノ井カフェ.
東京都墨田区東向島5-27-4



つくったのは、お弁当界の重鎮「ぺろり弁当」のシェフ。
春のお花見弁当が好評だったため、注文が殺到していたのだ。
ふきのとうとちくわを炒めたのが、おつまみにぴったりだった。

今回はおめでたいお弁当ということで、気合いの入ったお赤飯や鯛の尾頭付きなど、それはそれは豪華なラインナップ。おたのしみに。



ここ数日、「ぺろり弁当」のシェフを手伝って、夜遅くまで作業していた。
今夜が山場だぞ、と気合いを入れて作業していたら、思いのほか早く完成。
さっき入れなおした気合いをどうしよう。

目も冴えてしまったため「オロロン書房」に出かけた。
以前、まえがきを読んだだけで嗚咽してしまい、閉じた本。
酔ってる?と自問したが、アルコールなぞ入っていなかった。
こんな夜にこそ、読んでみたい。

しかし、この夜もだめだった。
感傷やセンチメンタルではない。
この作家の強さに自分が追いつけないのだ。(あたりまえだ)

しぼんだ気合いを入れなおしに「BAR GABGAB」へ。(早く寝なさいよ)
ここの水割りは不思議にうまいね、と、もうなん千回言ったかわからない褒め言葉を吐いては、ママに苦笑される寒い夜。

2018年12月14日金曜日

プロ雀士はメランコリック

はとたちがパンくずでサッカーをしているのを横目に、いつもの道を急ぐ朝。
昨夜、酒場で隣り合わせた、食欲のないプロ雀士のことを思い出す。
ママとジビエの話をしていたら
「ボクにはねぇ、食欲ってものがないんだよ」
と、プロ雀士は唐突に話し出した。

彼の前には、レモンサワーと食べかけのあじの開き。
何杯飲んだのか知らないけれど、おつまみはそれだけなのだろうか。
おなかが空くことはないんですか、と尋ねると、あるけど食べるのが億劫でね、と言う。
人間の三大欲求のひとつの「食欲」がないとは、いったいどういうことなのか。
興味を持って次々に質問をした。

三大欲求のうち、ふたつについては聞いたが、その次はやめておこうと思ったら。
反対側の隣で既にでき上がっていたゴルチェとその仲間たちが、食欲と睡眠欲を除いたもうひとつについて、あっけらかんと訊いてきた。

そういえばゴルチェも、女性を泣かせていたな。(しつこい)
覚えてるんだぜ。(しつこい)
枯れているように見せかけてゴルチェも・・・(やめとけ)
禁断の4杯めを飲み干して、お先に、とあいさつしようとしたら
「おにぎりとメンチね」
とプロ雀士。
食欲がないって、どのクチが言ったんだ~!
と心の奥で叫んだのは、言うまでもない。

2018年12月12日水曜日

台北マラソンと、またも開かれなかった本

しばらく国際線に乗ることがなかったため、出国手続きがシンプルになっていることを知らなかった。
時間をもてあまして、ひとまず一杯やることにする。
外の飛行機を眺めながら、あっという間に一杯めが空になった。
よって、もう一杯。
本を読み始めるもなかなか時間は進まず、場所を変えて新たにもう一杯。
ここは飲み屋さんじゃないんだぞ、と自分に言いきかせる。
機内では、離陸の瞬間からウトウト、機内食を食べている最中もウトウト。
読みかけの本は床に落ちていた。



今回の旅の目的は、台北マラソン。
台北在住の妹にすべてまかせて、私の仕事は無事に完走して、待ち合わせ場所へたどりつくこと。
フルマラソンは人生二度め。
今でも辛さが忘れられないくらい苦しいレースだったけれど、「加油!」「加油!」と応援してくれた沿道のみなさんの笑顔の方が、忘れられない。
そろそろ、いい思い出にすりかわりそうかな。


帰国寸前、羊歯の生い茂る場所へ連れていってもらった。
台湾には、日本統治時代の建物がそのまま残されていて、飲食店や書店、雑貨店やライブハウスなどが入っている。
元酒造工場と、元たばこ工場、どちらもしっとりした空気に包まれていた。
回廊、という言葉がしっくりくる長い廊下の途中で、静かに涙を流しているひとがいた。しっとり、ひそやかなこんな場所で泣くのもいいな、などと不謹慎なことを思った。


今回は白い花を売る花売りに会えなかったけれど、どこにいても、いつもその香りが漂っているように感じた。
連れていってもらった、おそろしく急な階段のバーでもその香りが漂っていたのでお店のひとに訊いたら、特に香りのするものは置いていないけど、と首をかしげていた。
台湾は、白い花の香りのイメージ。



帰国した翌日、尊敬する友から連絡があり、ふたりで行くのは初めての、いつもの酒場へ。
さすが尊敬する友。
すぐに同じテーブルの常連さんともうちとけて、杯を重ねる。

いつも会う紳士は仕事で台湾によく行っていたとのことで、しばし台湾話で盛り上がる。
しまいにはご自慢のジオラマを見せてもらいに、その紳士のお家にお邪魔して焼酎を一杯ごちそうになった。

見事なジオラマ部屋とすてきなお家、あれは夢?